サントリーの「値上げ」がビール業界に波紋を投げかけている。4月1日出荷分からのビール系飲料(ビール、発泡酒、新ジャンル)を値上げしたのだが、対象は樽と瓶だけで、缶入りは8月末まで価格を据え置くというのだ。

 「容器別の値上げなんて前代未聞。再利用できる樽と瓶より、缶のほうがコスト負担は大きい。価格据え置きは『最需要期の7~8月まで安売りします』と宣戦布告しているようなもの」とライバル会社は怒りを隠さない。

 すでに、キリンビール、アサヒビールは缶入りを含むビール系飲料の値上げに踏み切っている。サッポロビールもサントリーと同じ4月1日に値上げした。したがって、缶入りに関する限り、サントリーだけが「安売り」されていることになる。

 あるマーケティング調査会社のレポートによれば、3月時点でサントリーの発泡酒、新ジャンルの350ミリリットル缶6本セットの平均店頭価格は、スーパー、酒ディスカウンターではライバル各社より20~60円も安い。新ジャンルに至っては、なんと他社より約1割安い価格である。

 現在では、樽・瓶入りは業務用、缶入りは家庭用が主力となっている。長期契約が中心の業務用はともかく、家庭用のシェアはめまぐるしく変動する。発泡酒と新ジャンルを例にとれば、キリンの「淡麗」と「のどごし」が不動のトップだが、これらに次ぐ2位ブランドは各社の新商品乱発によって毎月のように入れ替わっているのが実態なのだ。

 缶入り価格据え置きで、この第2四半期にサントリーがシェアを伸ばすのは間違いない。そのとばっちりを受けるのは、サッポロである。これまで毎年のようにシェアを落としてきたサッポロは、新商品を連発し、安値攻勢に対抗してきたが、今回はさすがに苦しい。

 今月発表された1~3月の出荷数量で、サッポロのシェアは13.3%、サントリーは12.8%と逆転は目前。ライバル会社幹部は、「サントリーのビール事業は44年連続赤字。今期赤字になっても45年連続になるだけで、サッポロを抜ければ安いものと考えているのだろう。上場会社にはできない経営判断だ」と苦り切っている。酒税収入の安定確保を大義名分に国税庁が「指導」に乗り出さない限り、第2四半期でサントリーがサッポロを逆転するのは確実である。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 小出康成)