
銀行は大雪でも午前9時に
開店しなければならない
「課長は金曜日、どうする?大雪らしいけど」
支店長から内線電話が入った。「どうする?」とは、「木曜日の夜は宿泊するかどうか」の意味。雪が降ると、都心部は交通が麻痺し出勤できないことがある。それにどう対応するつもりか、という質問なのだ。
今は自由化されているが、もともと銀行は、午前9時から午後3時まで支店の窓口を開けておかなくてはならなかった。お金の決済は災害時においても必要とする人がいる。つまり、社会インフラとしての機能を自分たち銀行の都合で「できません」とは言えないのだ。
天気予報が発達した今日では、前の晩から徒歩圏内のホテルや支店に泊まり、翌朝の開店に備える。もちろん宿泊費は会社負担だ。会社のために備えるのだから、さすがに自腹というわけではない。
「どうやら積もりそうですね。念のため、ホテルを予約しておきましょう。誰を泊まらせましょうか?」
「そりゃあ、しっかり窓口ができる人じゃないと。よく考えて決めてくれよ。それに、あんまりしつこく言うなよ。命令だと受け止められたらパワハラになるし、かと言って、誘い方を間違えるとセクハラだと言われる。こういうの、難しいんだよ。支店長の俺が言うのもアレだから課長、お前が言え」
面倒なことはいつも私の役回りだ。今に始まったことではない。まずは、私が所属する預金担当課のメンバーで、どの仕事でも対応できる者から声をかけていく。
「村重さん、今、ちょっといいかな?金曜日、大雪の予報が出ているんだ」
「前の日、泊まれって言いたいんですね?」