いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳)がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)

【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で“最強”になる「超短い一言」Photo: Adobe Stock

自分を哀れむのをやめる

何に動揺し、何に悩み、何に嘆くというのか?
授けられた能力を本来の目的のために使うことなく、起きたことをくよくよと嘆き悲しむというのか?
「そうおっしゃいますが、鼻水が止まらないのです」
ではいったい、何のために手があるのか?
それで鼻をふけばよいではないか?
……文句をたれるより、鼻をふくほうがよほどあなたのためであろう!
(エピクテトス『語録』)  
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より

私、かわいそう! と思うほど泣ける

 泣くと鼻水がたれる。少女漫画で悲劇のヒロインが美しく涙を流しているように泣くことはできず、鼻が赤くなりズルズルいうのである。

 若い頃は容姿が恵まれていないことを嘆き、鼻水をたらしながら泣いたものだ。アイス屋さんで同じアイスを注文したにもかかわらず、美人の友だちのアイスは明らかに量が多かったのである。

 私、かわいそう!!

 そう思えば思うほど泣ける。誰か涙をふいてくれる人はいないものだろうか。

 ところが、哲学者エピクテトスは「鼻をふけ」と言う。一瞬、あんまりだと思った。

 エピクテトスはストア派の哲学者だ。ストア哲学は、自分でコントロールできるものに集中し、自分でどうにもできないことには執着するなと説く。

 エピクテトスは、「相手がどう思うか(私と友人を見てどちらを好ましく思うかとか)」や「すでに起きたこと(アイスの量に差があったとか)」に対して文句を言ったり悲しがったりするのではなく、自分の能力を適切に使うほうに集中しなさいと言っているのだ。

 冷静になってみればその通りである。さっさと鼻をふいたほうがいい。鼻水をたらして泣いていても何の解決にもならない。

「悲劇のヒロイン」から抜け出す一言

 自分を哀れむのって、けっこうクセになるから注意しなきゃいけない。「ね? 私ってかわいそうなの!」。ズルズルズル。

 悲劇のヒロインのつもりになり、なかなか抜け出せなくなってしまう。

 しかし本当は最高の自分になりたいし、よりよい人生を生きたいはずである。自分を哀れみ、くよくよしているよりも、自分の能力を使うことにエネルギーをさいたほうがいい。

 それにしても、この「鼻をふけ」という表現、めちゃくちゃよくないか。

 これから自己憐憫に陥りそうになったときは、すかさず「鼻をふけ」と唱えたいと思う。

(本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です)