時計を持った不満そうなビジネスマン写真はイメージです Photo:PIXTA

食事を噛まずに飲みこむ
早食いは銀行員の職業病

「課長、今日のお昼は一番に行ってもらっていいですか?」

 朝。開店前の準備を手伝う私の背後から、山川課長代理が尋ねてきた。

「一番?今日はどこでもいいよ。来客の予定はないから」

 一番というのは、午前11時台の昼交代のこと。みなとみらい支店の預金担当課は11時から12時を一番、12時から1時を二番、1時から2時を三番と呼び、交代で昼休みをとっている。

 11時の時点ではまだ空腹になっていない。また、一番の後は午後がやたら長く感じるものだ。それでも3人の管理者のうち、誰かがオフィスに残っていなければならない。交代で行かないと後がつかえてしまう。

 休憩を1時間取れることは滅多にない。おおむね20分ほどで職場から呼び出され、仕事へ戻ることになる。そのせいか早食いになりがちだ。結果として、噛まずに飲み込む芸当が身についてしまった。そのおかげで内臓を痛め、太りやすい体質になったと自己分析している。

「ごちそうさま。美味しかったです」

「もう食べたんですか?そんなに慌てて…」

 異動し、新たな支店での最初の昼ごはん。どの支店でも、厨房の賄いさんが目を丸くして驚く。営業を担当していた頃、「稼ぎが悪いくせにメシ食ってる場合じゃねえぞ」と支店長にドヤされたことが、今でもトラウマになっている。自宅でも家族との外食でも、早食いの癖は治らない。職業病だろう。

 テナントビルの事情などから、銀行では厨房設備がある支店とない支店がある。厨房設備がある支店は給食業者と契約しており、安価な昼食を食べることができる。会社から補助が出ており、自費負担は一食あたり450円から500円程度だ。

 支店によっては1カ月間の献立が決まっているため、好きな献立の日にシフトを入れてくるパートタイマーもいる。アレルギーで受け付けないメニューがあったとしても、賄いさんの腕次第で即席に別メニューを用意できることもある。

 厨房設備がなくても、配達業者があれば弁当が届き、電子レンジで温めて食べることができる。それもできなければ、自分で用意せざるを得ない。多くの金融機関で、窓口担当の女性は決められた制服を着用しており、基本的に営業時間中の制服姿での外出は許されないため、弁当かコンビニ食を各自準備してくる。

 厨房があるとないとでは昼食費の負担が変わってくるため、不公平のないように会社からの補助で調整される。

 私が以前、在籍した支店でのこと。40代の女性社員が異動してきた。着任初日に、食堂が提供する昼食のまずさに不満をもらした。翌日から弁当を持参し、賄いさんの面前でこれ見よがしに食べるようになり、そのうえ昼食費補助を申請してきた。厳密に言えば許されないことだが、言い争いになるのも面倒だったので黙認したところ、思いがけない展開になった。

 この補助金が給与として扱われ、所得税の非課税枠となる103万円の壁を超えてしまったのだ。怒りの矛先は私に向けられ「この話を聞いていればまずくても我慢していた」と立腹収まらず、退職してしまった。