欧州財政危機はどこまで飛び火するのか。
4月に政権交代を果たしたハンガリーのオルバン新政権の報道官が6月4日、「前政権の財政赤字を過小評価していた」と発言したのをきっかけに、ハンガリーの財政破綻懸念が噴出した。ハンガリー国債のCDSスプレッドは、200ベーシスポイント台半ばから一気に400ベーシスポイント前後にまで拡大した。ハンガリーへは、オーストリア、ドイツ、イタリアの銀行が多額の融資をしている。財政破綻は金融不安を招くとの連想から、ユーロは大きく売り込まれた。
その後、オルバン首相はIMF(国際通貨基金)の支援条件である2010年の財政赤字の対GDP比3・8%の目標を達成するために最大限努力すると発言し、新銀行税の導入など財政再建策も発表するなど火消しに努めた。そのかいもあり、破綻懸念は沈静化したように見える。
しかし、財政再建の道筋は平坦ではない。08年にIMFの支援を仰いで以降、緊縮財政に舵を切った結果、08年第4四半期から09年第4四半期までマイナス成長が続いている。税収の落ち込みも追い打ちをかけ、欧州委員会は09年のハンガリーの財政赤字の対GDP比率見通しを4・1%とした。つまり、IMFとの公約を守れないと見ているのだ。
依然として市場の目も冷ややかである。オルバン首相の発言以降縮小したとはいえ、CDSスプレッドはポルトガルとほぼ同水準の300ベーシスポイント前後で推移している。破綻への警戒心は解かれていない。ギリシャの例を見てもわかるように市場に追い込まれれば、国家といえども資金繰りに窮するのは言うまでもない。
オルバン新政権は、緊縮財政に反する減税を掲げて選挙に勝利した。国民の緊縮財政への反発を追い風とした以上、方針転換は国民への裏切りと映りかねない。
ハンガリー同様、IMF管理下にあったアルゼンチンは05年12月、増税、大幅な歳出削減策を発表した。だが、それが暴動を招き、対外債務支払い停止に追い込まれ、ついに06年4月には債務不履行に陥った。ハンガリーも同じ轍を踏む可能性は十分にある。
仮にハンガリーが財政破綻すれば、日本に対するそのインパクトはギリシャより大きい。
ハンガリーは1500億円、ハンガリー国立銀行は500億円のサムライ債(非居住者発行の円建て債)を発行している。これは、ギリシャとギリシャ国有鉄道の残高合計1087億円の2倍弱に当たる。しかも、「ハンガリー関連のサムライ債は個人投資家も保有している」(香月康伸・みずほ証券チーフクレジットアナリスト)。デフォルトとなれば、被害は広範にわたる。
また、隣国オーストリアのハンガリーへの与信残高は369億6400万ドルと突出しており、ギリシャへの与信残高の8倍強に及ぶ。破綻すればオーストリアの金融不安を招くことは確実だ。
欧州財政危機の火種は依然として燻っている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田孝洋)