世界経済は、依然として、不安定な状況が続いている。その中で日本企業は、生産コストがカギを握る大量生産品では、新興国の追い上げを受け、競争力を失いつつある。経営学の泰斗・神戸大学大学院の加護野忠男教授に、日本企業が活力と元気を取り戻すための条件を聞く。

加護野忠男
加護野忠男・神戸大学大学院教授

加護野教授:これから元気の出る企業の条件は、製品のイノベーションから、仕組みのイノベーションを実現できる企業でしょう。

 その典型がユニクロ(ファーストリテイリング)だと思います。考えてみれば、いまは過剰店舗気味ですが、コンビニも仕組みのイノベーションでできたビジネスですね。これに対して、百貨店やスーパーは、仕組みのイノベーションを進められず、厳しい状況になっている。

 例えば、中食(なかしょく)ビジネスでは、神戸にはロック・フィールドという会社がありますが、これも典型的な仕組みビジネスです。中食ビジネスの最大の問題は、雨が降ると、売上が大変に不安定になること。

 ロック・フィールドは、保存のきく方法で食材を配送し、店舗で最終的に食材を加工する。その際、全国にある2つの工場から配送するので、どこかの地域が雨でも、どこか別の地域は晴れているので、生産が平準化できる。廃棄損も少なくなるし、ビジネスを平準化することに成功しています。

―関西は松下電器産業(現パナソニック)、シャープ、三洋電機など、日本を代表する家電メーカーを生み出してきました。その家電メーカーが、いまや収益の低迷に悩んでいます。

 家電メーカーの中でユニークだったのは、松下電器です。もともと松下電器は、仕組みで勝っていた。かつては日本全国に、2万数千店ともいわれるナショナルショップを展開して、このショップがお客さんと緊密な関係を持ちながら、次の商品を提案していくという独特の販売のやり方を採っていた。無理をして安く売らなくても、お客さんの価値を高めていけば、ビジネスが成立していました。

 ところが流通革命の中で、販売は量販店が中心になる。量販店で売るとなると、品番が決まっているので、他のお店からお客さんを引っ張ってこようと思うと、値段を下げるしかない。量販店は値下げせざるをえないし、メーカーも製品の価格が低下するという方向にいかざるをえないということで、みなが疲弊するタイプの競争になってしまった。