関税地獄#2Photo:gk-6mt/gettyimages

米トランプ大統領の関税政策の一挙一動に株式市場が揺れている。航空機大手の米ボーイングに機体部品を納入している三菱重工業、川崎重工業も株価を大幅に下げているが、両社は「当面は直接的な影響はない」と意外にも状況を冷静にみている。なぜなら関税が直撃し、絶体絶命のピンチを迎えているのは、ほかでもない部品を輸入するボーイングだからだ。特集『関税地獄 逆境の日本企業』の本稿では、トランプ氏が掲げる「自国の製造業振興」と逆行する実態を、関係者への取材で明らかにする。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)

航空業界関係者が明かした
トランプ関税が米国メーカーを地獄に落とす理由

 米国のトランプ大統領の関税政策に、製造業各社が阿鼻(あび)叫喚の様相を呈している。9日午後には、発動したばかりの相互関税の上乗せ分について、中国を除き90日間停止すると発表したが、高率関税が発動されれば各業界は大打撃に見舞われることに変わりはない。

 直近では防衛銘柄として高止まりしていた重工大手の株価も著しく下げている。3月中旬から関税政策発表までの下げ幅は三菱重工業が3割、川崎重工業では4割に及ぶ。この2社は航空機大手の米ボーイングの機体製造を担う。先行きの読めない展開への不安感が市場を覆っているのだ。

 しかし関係者への取材によると、意外にも重工大手の受け止めは冷静だ。理由はシンプルで、関税は輸入者が負担するためだ。つまり、航空機部品の場合は、ボーイングが関税を負担することになる。

 トランプ大統領は、関税措置は米国の貿易赤字に対処する手段だと主張し、「米国の製造業の振興」につながると主張している。にもかかわらず、ダメージは米国の製造業であるボーイングに向かっているのだ。

 中型機・787の主翼を製造している三菱重工の関係者は「トランプ大統領が言っていることと実態とはまるで逆。このままでは米国の製造業を代表するボーイングが血を流すことになる」と語る。

 世界を驚愕(きょうがく)させている米国の関税政策は、日本、東南アジアを含む航空機の巨大なサプライチェーンに何をもたらすのか。ボーイングは絶体絶命の危機に対してどのように対処するのか。次ページで詳報する。