総選挙に向けた民主党のマニフェストが大手メディアから集中砲火を浴びている。「財源が不透明だ」とか「ばらまきという点で他と変わらない」といった指摘が、そうした批判のポイントだ。
しかし、こうした批判の本当の発信源は、実は政権の座を失いたくない自民党と、その走狗と化した霞が関の各官庁だ。劣化する一方のメディアの多くが、こうした批判の発信源やその意図を冷静に検証する作業を怠ったまま、敵役である自民党の言い分に過ぎない民主党批判を垂れ流すという致命的失態を犯しているのである。
内容を見る限り、民主党のマニフェストは、批判されているほど悪くなどない。むしろ、郵政3事業の民営化だけを唯一の公約に掲げて、郵政民営化さえ実現すれば他の多くの改革も自動的に実現できるかのような幻想を抱かせた4年前の小泉純一郎・自民党政権の無責任なマニフェストと比べると、鳩山由紀夫・民主党は様々な問題に対する取り組み姿勢を易しく説明している。そのマニフェストは、誠実で分かりやすい内容と言える。
とはいえ、このマニフェストとて十分とは言い難い。そこに抜け落ちている問題があるとすれば、何より、経済政策の具体性こそ、いの一番に指摘されるべきである。
というのは、産業ごとの競争力の回復・強化策がすっぽりと抜け落ちているばかりか、郵政民営化では上場の凍結や4分社化の見直しまでは公約したものの、その具体的な方向を何も示していないからである。
民主党公約のあら捜しを
自民党が省庁に依頼
筆者の手許に、「関係者手持ち資料」と記された自民党の内部資料がある。20ページの小冊子の体裁で、そのタイトルは「今回の選挙は『保守主義』の自民党か、『社会主義』の民主党か、の選択である!」となっている。日付は7月23日付で、自民党が、発表前から民主党のマニフェストを探り、得た情報を元に対策を練っていたことがわかる資料なのである。
クセモノなのは、この資料の作成者が「自由民主党 政務調査会」となっている点だ。というのは、資料の形にまとめたのは自民党の政調かもしれないが、中身を具申したのは霞が関の主要官庁の官僚たちだからである。ある有力官庁の永田町担当者は「1度ではなく、執拗に何度も、民主党のマニフェストの粗探しをするよう要求された」と、その実態を認めている。
こうした舞台裏を取材していくと、今回のマニフェスト選挙は異常である。そもそも、前回の総選挙で勝利して、引き続き政権を担当した自民党は、本来ならば、当時のマニフェストと自らの4年間の実績を照らしあわせて自己評価すべきところである。そして、民主党はこれに対して、自らのマニフェストを出し、どう改革を進めたいか論じればよいのである。