メトロール会長 松橋 章(写真右)
メトロール社長 松橋卓司(写真左)
Photo by Toshiaki Usami

「世に残る唯一無二の製品を作り続けたい」──。接触式精密位置決めスイッチで世界首位のメトロール創業者、松橋章は会長となった今も、新しいアイディアが浮かぶたびに図面を引く。御年86歳、ものづくりへの情熱はいまだ衰えていない。

 精密位置決めスイッチとは工作機械の刃先の始動位置をマイクロ(100万分の1)メートル単位で正確に測定、設定する装置。金属を削る工作機械は刃こぼれが付き物だが、そのまま動かしていくと狂いが生じる。かつては現場の職人が刃こぼれによる影響をそのつど計算していたが、この精密位置決めスイッチの登場で生産ラインが自動化された。

「メトロールのスイッチを使えば生産効率が3~4割高まる」。誤差が2000分の1ミリメートル以内という高い精度に加え、従来品の10分の1程度という安価で世界の工作機械メーカーのあいだで爆発的ヒットとなり、世界シェアの7割を誇るほどだ。

世界初の技術を開発
特許の未申請で事業は暗礁に

 松橋のものづくりにかける原点は、東京大学卒業後に入社したオリンパスでの研究開発にさかのぼる。胃カメラ開発に携わり、世界中にオリンパスの名をとどろかせた。「医師の要求に応えて二人三脚で開発を進め世に認められたことは技術者冥利に尽きる」と振り返る。このとき「決して人まねをしない」という松橋の理念が形成された。

 測定器メーカーに転職後は、要職に就き安泰のサラリーマン生活を送っていたが、かつての部下がリストラに遭い、松橋を頼りに起業を持ちかけてきた。「技術屋の血が騒いだ」松橋が、メトロールを立ち上げたのは1976年、52歳のことだった。

わが社はこれで勝負!
世界最小5mm×17mmの接触式精密位置決めスイッチ。大手メーカー品を凌駕する300万回使用に耐えられる性能ながら5500円と安価で海外からの評価も高く、医療用での使用も期待される。将来を担う高付加価値製品群の一つ

 翌年、初の大仕事が舞い込んだ。トヨタ自動車の依頼で不良品を判別し信号を出す測定器を共同開発することに。厳しい要求に音を上げそうになったが、試行錯誤のすえに材料に超硬合金を採用するなどしてスイッチを完成、これが後の精密位置決めスイッチの原型となった。

 問題は売り方にあった。オーダー品を作っては納め、受注に走り回る繰り返しだったため、コストがかさんで仕方ない。借金は数千万円にふくらみ自宅を抵当に入れ、「会社の身売りを考えた」矢先、転機が訪れる。工作機械の刃こぼれ修正に手間取り困っているという相談が来たのだ。トヨタとの共同開発の成果を応用し、現在の主力商品でもある精密位置決めスイッチを開発。工作機械メーカーがこぞって採用したことで4億円を売り上げるまでになった。