9月21日に日本銀行は、マイナス金利付き量的質的金融緩和策(QQE)の「総括的な検証」を公表する。それに先立って5日に行われた黒田東彦・日銀総裁の講演には、注目すべきポイントが3点あった。
第一に、2年程度で達成するはずだった2%のインフレ目標が、約3年半たっても実現できていない理由について、率直な説明があった。以前は、インフレ率やインフレ予想が停滞しても「QQEは所期の効果を発揮している」と強弁することが多かった。
人々の予想物価上昇率はQQE開始から2014年夏までは上昇したが、次の1年は横ばい、その後は低下した。原油価格の大幅下落や国際金融市場の不安定化による影響を、マイナス金利政策などで「跳ね返す」には至っていない。
予想物価上昇率は、「フォワードルッキングな予想形成」と、過去の経験から影響を受ける「適合的な予想形成」から成る。前者がいまだ2%にくくりつけられて(アンカーされて)いない中、原油価格下落などで実際のインフレ率が弱含んだため、大胆な緩和策実施にもかかわらず、予想物価上昇率は低下してしまったという。
日銀はすでに7月の展望レポートで、日本の賃金改定交渉は欧米よりも前年のインフレ率の実績を重視すること、日本の公共料金や家賃・帰属家賃は上昇しにくいことを指摘していた。それらを合わせて推察すると、今後の日銀は「できるだけ早期にインフレ目標を達成する」と再強調しつつ、緩和策に短期間では反応しない要因が現実には多々あることを丁寧に説明。それによって、インフレ目標達成期間を短期から中期へ事実上シフトさせると思われる。