実際A君の言う通りで、仕事に困ったことはなかった。残業が大嫌いなA君に僕は、上司の指示のかなりの部分は、仕事の本筋には関係のない単なる思い付きに過ぎないということを教えられたのである。

 上司の錯覚の1つは、時間も部下も無限大なので、根を詰めればいい成果が出てくると思いがちなところにある。この世の中のたいていのものは時間を含めて有限なので、根拠なき精神論の代表の1つである「時間も部下も無限大(に使える)」に対しては「無減代」で対抗しなければならない(なお、「無減代」は、講演に伺った際に日東電工の柳楽会長に教えていただいた言葉である)。

セーフティネットは適用拡大

 毎日のように喫茶店に出かける編集者は成果で仕事をしているのであって、時間で仕事をしているわけではない。これからの時代の多様な働き方を保障するセーフティネットは、厚生年金(健康保険)の適用拡大を基軸として制度設計を行うべきである。

 国民年金は本来、自営業者のための年金であって、被用者はすべて厚生年金で保護される。これが、わが国の皆年金制度本来の理念であった。そこで、労働時間に関係なくすべての被用者は厚生年金を適用するものとし、パートやアルバイトなどをすべて国民年金から厚生年金に移せば、正規、非正規という区別も自ずと雲散霧消するであろう。また、下流老人という言葉も消えるのではないか。

 これはパートやアルバイトで過ごしてきて国民年金しかもらえない高齢者を想定しているからである。中小・零細企業主で、パートやアルバイトにも社会保険料を負担したら生業が成り立たないと悲鳴を上げるであろう向きには、ドイツのシュレーダー元首相の言葉について考えてもらうべきではないか。

「人を雇うということは、その人の人生に責任を持つということだ。社会保険料を払えない企業はそもそも人を雇ってはいけないのだ」

 適用拡大は、ゾンビ企業の退場にも力を貸して経済の足腰を強くするのである。もちろん、主婦の中にもパートやアルバイトで働いている人は多いので、適用拡大は3号被保険者の収束にも役立つのである。

 以上のように考えれば、働き方の改革の根本は、「『メシ・風呂、寝る』から『人・旅・本』へ」であって、残業の原則禁止の徹底(≒長時間労働の是正)と、適用拡大の2本柱(あるいは、これに定年制の廃止を加えた3本柱)を中心に制度設計を行うことが望ましいと思われるがどうか。

(文中、意見に係る部分は、筆者の個人的見解である)