「HaWrap」。シンプルなデザインながら、新しいスリッパのあり方を提案してくれる商品だ

 次いで生まれた「HaWrap(ハラッパ)」は、部材がたくさん必要かつ複雑な工程の多いスリッパを、シンプルな構造にし、簡単に接合するだけで履けるようにしたもの。1枚の葉っぱで足を包むような革命的なデザインが特徴で、履き心地も快適だ。

 こうして生まれた「HaWrap」は2009年山形エクセレントデザイン奨励賞を受賞、「HAKAMA JITATE」は山形エクセレントデザイン2011年「エクセレントデザイン大賞」を受賞する。

「KINUHAKI」。サイズの大きいもので2万円と高級だが、やはり履き心地はとても滑らかだ

 そして、2人がデザインを学び始めてからたった2年、2009年グッドデザインアワードで日本商工会議所会頭賞を受賞したのが、「KINUHAKI」だった。これは「HAKAMA JITATE」の最上級として作られたもので、最高級の絹で米沢織り職人が織り上げた袴地を使っており、シリーズで一番高い「KINUHAKI 無双」(LLサイズ)はなんと2万円の最高級品。それでも高級旅館や「定年退職のお祝いなどで購入してくださる方がいる」(宏子さん)など、ここぞの一品として選ばれている。2014年6月に秋篠宮妃紀子さまと眞子さまが河北町の紅花資料館を訪問された際、「KINUHAKI」を履き、土産品として持ち帰ったことでも話題になった。

「KINUHAKI」はグッドデザイン賞を受賞。一気に全国区の商品になった
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 なぜ良い商品を作っているのに売れないのか――。そんな悩みを持つ地方企業は少なくないが、その多くに共通するのが、「商品コンセプト」と「デザイン力」の欠如だろう。地方でお土産を買った時、「この商品、パッケージを変えるだけで売れるのに…」と思った経験のある人はいるはず。

 一方で、阿部産業は自らに足りなかったデザイン力を「デザイン塾」での学び、外部のデザイナーとのコラボレーションで補うことに成功した。ただ、もちろんデザイン力だけで成功はできない。「品質第一」にこだわり続けてきた歴史的背景と地場産業とのコラボレーションがあったからこそ、阿部産業はスリッパメーカーとして今も選ばれ続けているのだ。

夢は河北町を「スリッパの聖地に」
ブランド化で海外製との差別化へ

工場長の太田洋子さん。現在「HAKAMA JITATE」の複雑な縫製が完璧にできるのは、太田さんしかいない

 現在、26名の社員と20名の内職の手を借りて、年間21万足をつくるという同社。以前は9割以上問屋に商品を卸していたが、近年バブーシュタイプのスリッパ人気もあり、今では直接インテリアショップなどに納めることも増え、ここ1、2年は20~30%が直取引に。「問屋さんを通さない商品が増えたことで、消費者の声が掴みやすくなった」と弘俊さんは語る。

 ただ、阿部産業オリジナル商品には非常に高度な技が必要で、現在修行中の職人がいるものの、「HAKAMA JITATE」「KINUBAKI」などの高級スリッパを作れるのはこの道約40年の工場長・太田洋子さん一人だという。