ここに一枚の写真がある。撮影時期は7月で、山の麓の畑に植えられているのはニラである。
「好きな野菜は何か」と聞かれ、「ニラ」と答える人はあまりいないのではないかと思う。ニラを使った料理といって思い浮かぶのも「餃子」「ニラ玉」くらい。決してメインを張れる野菜ではない。女性の場合、その匂いも気になるところだ。
ところが、その嫌われ野菜で儲かっている産地がある。ニラのブランド名は「達者de菜」。栄養満点のニラを食べればマメで元気になれるという意味らしいのだが──。
予想以上に熱かった
ニラの統一ブランド名を巡る戦い
訪れたのは山形県最上地方だ。県内は大きく庄内、最上、村山、置賜の4つの地方に分かれており、北東部に位置する最上は、年により積雪量が2メートルにもなる豪雪地帯である。取材のために訪問した時期は10月上旬で、JR新庄駅から現地の農協へ向かう途中には見渡す限りの田園風景が広がっていた。ちょうど刈り取りを終わったばかりの田んぼは、どれも見事なまでに区画整理されていた。
到着したJA金山で、営農部部長の柴田裕一さんと生産者でにら部会長の大場孝さんにニラに関する詳しい話を伺った。案内していただいたのは、JA全農山形の最上米穀園芸推進室、鈴木学さんである。
──「達者de菜」は最上地区にある5つの農協が使用している統一ブランド名だそうですが、秀逸ですね。どなたが考えたのでしょうか?
柴田「20年くらい前、広域の全農の会議で話し合ったなかで出てきた、と聞いています。じつは、宮城に『もっこりにら』というのがあったんですよ」
──もっこりにら!?
柴田「てんこもり、とかいう意味の。だから、まあ、それに負けないインパクトのある名前をということで考えたらしいです」
ブランド名を決める会議に参加していたのは、各農協の事務局長、部会長とみな高齢者だった。ニラは言わずと知れたパワー野菜。すぐに「ニラを食べて達者で長生き、それでいこう」ということになった。