クリームコロッケはご飯のおかずにはならない

 現在、ラードで揚げた、じゃがいもコロッケが食べられるのは町の精肉店、定食屋だけだろう。ラードを常備している家庭はないし、資生堂パーラーのような老舗洋食店ではじゃがいもコロッケを前面に押し出していない。老舗の洋食店はカニコロッケ、クリームコロッケは置くけれど、じゃがいもコロッケはメニューに載せていないところがほとんどだ。人形町の芳味亭には肉コロッケという名前のものがあるけれど、あれはコロッケでなくメンチの一種だ。

 ただ、定食屋で出てくるじゃがいもコロッケがおいしいかと言えば、まずそういうことはない。定食屋で出てくるコロッケはたいていは業務用の冷凍コロッケを揚げたものだ。わたしは「おお、これは珠玉」というものにあまり出会ったことはない。そして、持ち帰り弁当店のコロッケも同様で、これまた冷凍品だ。つまり、手作りのちゃんとしたじゃがいもコロッケを外で食べようと思うと、なかなかな難しいのである。

 そのため、じゃがいもが入った、まっとうなコロッケを食べようと思ったら、信頼のおける精肉店で買うか、もしくは自分で製造するしかない。しかし、家庭のキッチンでラードを使用することは家族が抵抗するのではないか。そうなると、じゃがいもコロッケを調達するには信頼のおける町の精肉店しかない。繰り返すようだけれど、じゃがいもコロッケのあの味はじゃがいもとラードの出会いにある。サラダ油では物足りない。

 いまも正統派じゃがいもコロッケを揚げているのが学芸大学にある栄屋精肉店だろう。中学を出て精肉店で修業をしたおじさんは豚肉をさばいて、脂身から自家製ラードを取る。じゃがいもコロッケは自家製ラードで揚げる。同店ではフライヤーを使って揚げているけれど、酸化防止剤を入れることなく、つねに油をろ過して、さらにラードを継ぎ足している。胸焼けすることはない。

 精肉店のコロッケを買う時はまず、手作りかどうかを聞くこと。次にラードで揚げているかどうかを確かめる。そして、厨房をのぞいて、油をろ過しているかどうかもそれとなく訊ねてみる。

 さらにいえば、精肉店のじゃがいもコロッケがおいしいのはさまざまな食品をフライにしている点がある。アジフライ、海老フライを揚げている店だったら、コロッケにアジや海老の味が付加される。ウインナフライ、白身魚のフライ、鶏のから揚げなどを揚げていればさらにいい。じゃがいもはすべての味を吸収してしまい、さらに自身の存在感を知らしめる。さまざまな揚げ物から出た滋味がじゃがいものなかに入り込み、得も言われぬ味を作り出す。その味は家庭では再現できない。