世界のビールメジャーがクラフトビールへの投資を加速させ、その触手は日本企業にも及ぼうとしている。日系大手はどう対抗するのか。グローバルビール企業のクラフトビール戦略をレポートする。(「週刊ダイヤモンド」編集部 泉 秀一)
世界最大のビールメーカーであるベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)。10月10日に世界シェア第2位の英SABミラーの買収手続きが終了する予定で、ついにABインベブが全世界の約3割のシェアを握ることになる。
数々の買収によって成長を遂げてきたABインベブは「まるで投資会社のよう」(大手ビールメーカー幹部)と表現されることが多い。そして彼らは今、次なる投資対象にある日本企業を定めている。アサヒビールでもキリンビールでもない。「常陸野ネストビール」で知られるクラフトビールメーカーの木内酒造だ(第7回参照)。
最近、茨城県にある木内酒造に、毎月のように米国ニューヨークからABインベブのクラフトビール担当副社長が訪れているという。
「ABインベブは日本で有力なクラフトビールメーカーを買収しようとしている」(クラフトビールメーカー関係者)。その標的になったのが、世界50ヵ国でビールを販売し、日系クラフトビールメーカーとして最大の知名度を誇る木内酒造だったのだ。
もっとも、木内酒造サイドにABインベブの提案に応じる様子はなく、買収は実現しない模様だ。だがニューヨークから茨城にまで訪れるという事実に、彼らの熱量の大きさが感じられる。
インベブがクラフトビールを買収する理由
なぜ、ABインベブは日本でクラフトビールメーカーを探しているのか。理由は2つある。
1つは、SABミラーの買収により、ABインベブは世界の白地図をほぼ埋め尽くし、独占禁止法により「もうこれ以上は、大部分の大手メーカーを買えない」フェーズに入ったからだ。事実、SABミラーの買収においても、米国や欧州などでブランド売却を余儀なくされている。
そうなると、次なる成長のために必要なのは地域拡大ではなく商品単価の上昇である。そこで、スタンダードビールよりも高単価のクラフトビールに次なる活路を見出そうとしているのだ。
2つ目は、先進国を中心にビールのトレンドが変化していることだ。クラフトビール大国の米国の小売店では、ABインベブの「バドワイザー」すら、棚の隅に追いやられるのが現状(第6回参照)。そこでABインベブは、クラフトビールメーカーを買収して内部に取り込もうとしているのだ。