「宗教的にお酒を飲みなれていない国の方々にも、梅酒は甘くて飲みやすいらしいです」と小串さん。タイからの団体客が、梅酒をお土産に購入。宿泊したホテルの宴会で、ビールや焼酎があまり口にあわず、かわりにお土産を全部飲みほしてしまい、慌てて買いに来たという話もあるくらいだ。

「たぶん梅酒は世界中でもっとも飲みやすいお酒なんじゃないかと思います」(小串さん)

 梅干しよりハードルが低く、世界各地で受け入れられる梅酒。なかでももっとも可能性が高いと梅酒業界が注目するのは「中国」で、とくに「香港」だという。そもそも中国では「梅の砂糖漬け」がお菓子としてポピュラーなため、梅に親しみがある。また、国内の梅酒製造において圧倒的なシェアを誇る、大阪府・羽曳野市「チョーヤ梅酒」が大々的に香港でPR・営業活動を行い、梅酒がスーパーやコンビニの定番商品となっていた。「梅酒といえば『チョーヤ』」というほど認識されていたのだ。

 そして、梅酒だけではなく、いま香港で、「梅の実そのもの」がブレイクしはじめていた。

“梅酒を自宅で作る”という
文化ごと香港へ輸出

 2013年、和歌山県では収穫中盤からの高温多雨という、異常気象により梅が過去に経験のない大豊作を迎え、出荷想定を大幅にオーバー。一大産地である田辺市・JA紀南では喜ぶどころか、頭を抱えてしまった。

 売り先がない!

 梅は生で食べるわけにはいかない、アシの早い特殊な果実。少子高齢化の中、梅干しの需要は年々下がり、家庭で梅酒を作る風習も少なくなり、梅の消費量は右肩下がり。過剰供給は値崩れを引き起こしていた。

JA紀南加工部部長の榎本義人さんと、加工部営業課海外営業担当の下岡三穂さん

「新たな販路が開拓できないものかと模索しているところに、香港バイヤーからの青梅輸出の打診があり、トライすることになりました」と語るのは、加工部部長の榎本義人さん。

 まずはテスト輸送のために、百貨店での販売が企画された。とはいえ香港の人々は、梅酒のことを知っていても、「梅酒を漬ける」というカルチャーはまったくない。

「梅酒ブームが起きている香港に青梅を届けて、『梅酒は自分たちでも作れる』という世界を演出できないかと考えました」(榎本さん)

 つまり、「梅酒を漬ける」という日本の食文化そのものを輸出することにしたのだ。

 かくして、百貨店に青梅を搬入し、店頭梅酒の漬け込みを実演し、試飲をしながら販売したところ、大好評。手ごたえを感じた榎本さん。しかし、問題があった。「言葉の壁」である。

 もっと梅の文化を知ってもらうこと、そして商談会で取引を成功させるためには、英語で梅を説明できる人材を、とJA紀南では初の「海外営業担当」を採用。

 白羽の矢が立った下岡三穂さんは海外の留学経験があり、英語が堪能。帰国後も海外向けの仕事に従事していた。

 白浜町出身とはいえ、梅の知識はそれほどあるわけではなかった。地域を盛り上げるためにもと梅の歴史、品種や加工技術まで「毎日、猛勉強」(下岡さん)。2015年、梅の旬である5月下旬~6月にかけて、2度目となる青梅の実演販売を行うべく香港へ向かった。