世界各国の米国大使館や領事館と国務省との間でやり取りされた外交公電などが内部告発サイト「ウィキリークス」によって暴露され、世界に衝撃を与えている。各国の指導者たちは米国外交の本音を聞いてすでに反撃に出たりしているが、問題はこの情報流出が今後米国の外交のみならず世界の安全保障にどれだけ深刻な影響・ダメージを及ぼすか予測できないことだ。外交、安全保障の専門家として世界中を駆け回っているスティーブン・クレモンズ氏に聞いた。
(聞き手/ジャーナリスト、矢部武)
(Steven Clemons)
中道系シンクタンク、ニューアメリカ財団のシニアフェローで米国戦略担当ディレクター。専門は外交、防衛、安全保障、国際経済、欧州・中東・東アジアなど。国際政治学者のチャルマーズ・ジョンソン氏(故人)と日本政策研究所(JPRI)の設立に参加し、ワシントンではジェフ・ビンガマン上院議員(民主党)の政策顧問(経済・国際問題)や経済戦略研究所(ESI)副所長などを務める
――ウィキリークスによる外交公電暴露は「関与と対話」を掲げたオバマ政権の外交にどんな影響を及ぼすか。
外交の基本である機密保持の原則が守られなければ、各国の外交官は正直な意見交換をしなくなるだろう。情報流出で面目をつぶされた各国首脳たちは今後、米国との対話でどこまで正直になるか考え直すことになるかもしれない。
しかし、各国首脳はいま第2、第3の情報流出が日本や中国など他の国で起こることを心配している。どこの国でも政府の機密情報管理のデジタル化が進み、大量の情報流出が起こりやすい状況になっている。これはすべての国にとって重大な問題なのだ。
それと、米国民にとってはこの事件は政府の機密情報と国民の知る権利、メディアの役割などについて考える良い機会となった。
政府の外交公電は基本的に秘密にしなければならないことは理解できるが、一方で国民が知るべき情報を知らせるのはジャーナリストの役割である。ジャーナリストの場合は個々のケースごとに行なわれるが、ウィキリークスはまとめて大規模な情報公開を行ったということもできる。
従って、私はウィキリークスを一方的に非難するグループに加わるつもりはない。情報を秘密にするのは政府の仕事だが、多くの有益な情報を公開し、透明性の高い社会を求めていくのはメディアと市民の役割なのである。
――ウィキリークスを非難すべきではないと?