孫正義氏の「一発OK」を次々に取り付けた伝説的プレゼンテーターで、ベストセラー『社内プレゼンの資料作成術』著者の前田鎌利氏。彼が講師を務める「ダイヤモンド社プレミアム白熱講座」の開催まで、あと2週間。今回の記事では、映画『シン・ゴジラ』のワンシーンで前田氏が目を付けた「プレゼンのポイント」について解説する。緊急事態に遭遇したときに、上層部の意思決定を正しく導くために、私たちは何をすべきなのか?(構成:前田浩弥)
『シン・ゴジラ』主人公・矢口の主張が一蹴された理由
プレゼン術として、よく言われるのは、スライドの見栄えやトーク技術です。しかし、これらは必ずしもプレゼンの本質ではありません。もちろん、伝えるべき内容を「どう」伝えるか、というのは大事なのですが、「何」を伝えるのかがしっかりと固まっていなければ意味がありません。
では、伝える内容を煮詰めていくうえで何が重要なのか?
当たり前のことですが、とにかく「情報」を集めることです。
たとえば、実現したい企画があったとします。その企画を通すために、意思決定者に「よし、やってみよう!」と思ってもらう必要があります。そのために、情熱を込めてプレゼンをすることは重要ですが、その根底に、その企画がビジネスとして有効であることに説得力をもたせるだけの、客観的な情報やデータが必要不可欠です。これらが不十分であれば、どんなに情熱を込めてプレゼンをしても、「それは、君の思い込みだろう」「思いつきなんじゃないか?」と取り合ってもらえません。
決め手となるのは、情報なのです。
『社内プレゼンの資料作成術』でもお伝えしましたが、その企画にニーズがあることを根拠づけるファクトを押さえておくことが重要なのです。
先日、大ヒット映画『シン・ゴジラ』を観たときにも、改めて、プレゼンにおける情報の重要性を認識させられました。
映画の前半。東京湾の熱量が上がり、謎の水蒸気が出て、「何が起こっているんだ!?」と街はパニックに陥ります。結果から言うとこれはゴジラが引き起こした現象だったわけですが、この時点ではまだ、何が起こっているのかわからない。緊急事態ですから、首相をはじめ主要な大臣や官僚が急遽集まって、対応策の検討を開始しました。
とにかく早く「何が起こっているのか」を突き止めて、国民に説明をしなければいけない。そして、パニックを収めなければいけない。その焦りから、会議の参加者たちは少ない情報しか得ていないにもかかわらず、原因の特定を急ぎます。
東京湾の熱量が高まっている。水蒸気も出ている。すると、新しい火山でもできたのではないのか。そうだ、そうに違いない。これでパニックも収まる。すぐに発表しよう――。
なかには「こんなに浅い海底で火山ができるわけがない」と指摘する参加者もいましたが、「でも、新しい火山ができたとしかしか考えられないじゃないか。そうじゃなければ説明がつかない」という声のほうが大きく、かき消されてしまいました。
そんな喧噪のなか、30代後半で内閣官房副長官を務める主人公の矢口蘭堂が、異論を唱えます。
「ちょっと待ってください。今、ネット上では、東京湾に何か生命体が表れているらしいという噂が流れています。未確認生物かもしれないという話もあります。新しい火山ができたと発表するのはまだ早いのではないでしょうか」
するとほかの参加者は「そんなことあるわけないだろう」と一蹴します。そして「総理もいるこのような場で、ネット上の噂話なんて不確定な情報を流すんじゃない。早く国民にアナウンスしなければいけないんだから、新しい火山ができたと言えば説明がつくだろう」とたしなめます。
映画を観ている私には、ゴジラが原因だとわかっているので、なんともじれったいシーンです。ろくに情報もないなかで、火山が原因だと決めつけようとする人、それに盲目的に追従しようとする人、ことなかれ主義的な発言に終始する人……。劇中とはいえ、「こんな首脳たちに、意思決定を任せてていいのか?」といたたまれない気持ちになります。皆さんも、そうだったのではないでしょうか?
しかし、その直後にすべてを一変させる映像が流れます。
会議室に届いた衝撃的な映像です。東京湾から、生物のしっぽらしきものが出ている。その場にいた人たちは、言葉を失います。これはどうやら「新しい火山」ではない……。そして、矢口が話していた内容が急に信憑性を増すのです。
つまり、確定的な情報がたったひとつあるだけで、意思決定に劇的な変化を生み出したということです。
当初、矢口が手にしていたのは、ネット情報のみ。政府首脳の年齢層を考えれば、「ネット情報=信頼性が低い」ととらえられてもやむをえないでしょう。だから、彼が懸命に伝えても、首脳の意思決定を変えることができなかったのもやむをえないと思います。しかし、たったひとつの映像が、すべてを変えたのです。