エンターテインメントには優秀なプロデューサーが足りない

森岡 世界観の価値を見抜く優秀なプロデューサーには、共通項があると思うんですがいかがですか?

佐渡島 まさに、そう思います。

森岡 クリエイターのマネジメント、タレントのマネジメントも含めて、ブランドのマネジメントができていると思うんです。さらに言うと、ファンのマネジメントもできている。ファンとのつながりをどう作っていくか、ファンをどうやって増やしていくかをシンプルに模索していると思います。

佐渡島 そうですね。

森岡 スタジオジブリの鈴木敏夫さんは「観客動員を倍にしなくちゃいけないんだったら、コンテンツのメディア露出を倍にしなくちゃいけない」とおっしゃっています。その考えにもとづいてPRプランを作っていくわけですよ。「メディア露出の量と興行収入が正比例になる」ということに体で気づいていた。

 実は、これは、数学的な真理にも当てはまっているんです。いわゆる、「認知の法則」なわけです。私みたいな若輩者が裏付けても仕方ないんですが、数学で知り得たことを含めて見ても、ジブリさんがやられてきたことは、すごく正しいことだといえる。経験則の中で、かなり嗅覚と直感を鍛えてきた結果ではないかと思います。

佐渡島 そうですね。

森岡 これはすごいことだと思います。「これまでこんな傾向があるから、正しいに違いない」といえる者と、「正しかったのはこうだから、こうすれば正しくなる」と見い出す者。プロデューサーの能力として、どちらもすごい。

佐渡島 日常生活品だと、サンプリングをメチャクチャ重視するじゃないですか。

森岡 はい。

佐渡島 コンテンツは、一回限りのものだから、みんなサンプリングではなくて「先にお金を払ってください」という理論になる。それはなぜだろう、と思うんですよね。

森岡 多くはそうですね。

佐渡島 そうですよね。でも、鈴木さんは、「試写会に何人来たか。試写会を見せることができた人数と、ヒットの数が比例する」ということも言っている。だから、協賛企業に対して、団体で試写会を見るみたいなのもセットにしてるんですよね。

森岡 普通、そんなふうに大盤振る舞いしないですもんね。

佐渡島 でも、狙っている数がでかいから、10万人単位の人に無料で観せて声を広めてもらうことを重視している。私もマスにうけるようにするのではあれば、コンテンツもサンプリングをしないといけないだろうなと思ってます。出版社も、狙っている売上が1万部だったら、サンプリングをやる価値はあんまりないのかもしれないけれど、100万部を狙っているんだったら、やっぱり10万人とか20万人へのサンプリングはすべきだと思う。

森岡 特に、マンガの場合は、1巻、2巻を読んでもらったら、その後でも、20巻くらいまで描けばお金を払ってくれるわけですよね。

佐渡島 そうなんですよね。

森岡 ロングタームで見たときに、取りにいっている売上の面積はもっと大きくなるはずなんですよね。

『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』(森岡毅/KADOKAWA)

佐渡島 はい、結構大きい。しかし、それが理解されにくい。

森岡 とてつもなくすごいプロデューサーがいて、そういう人たちが作ってくれたコンテンツを見て、私は育ちましたから。ジブリの映画をもう擦り切れるくらい何回も観てきたので、日本のクリエイターもプロデューサーも凄まじい力を持っていると信じているんです。

 正直、これだけゼロからイチを生み出した国もなかなか珍しいと思いますよ。それをちゃんと商業化して、産業として成立させる力、ビジネスにする力をもっと持つと、さらに日本のコンテンツを世界に発信していける。私は、クリエイティブの皆さんの持っている潜在能力に比べて、まだまだこちらプロデューサーのビジネスサイドの力が弱いと思っているんです。

 なので、クリエイティブの才能をちゃんとビジネスとして成立させる能力というのが問われている。責任が大きい。私たちがやらなくちゃいけないところは、そこなのかなと思います。プロデュースできる人をどんどん増やしていくことを含めてね。

クリエイターが報われる世の中というのは、笑顔が増える世の中だと思う。それを作るには、プロデュースの力が必要だぞと責任を感じています。

(明日に続きます)