ユニバーサル・スタジオ・ジャパンをV字回復させたマーケター・森岡毅氏とコルクの佐渡島庸平氏(twitter:@sadycork)の対談、第5回。
勘やセンスに頼りがちなエンターテイメントの世界で、マーケティングをいかに行えばいいのか。二人の対話は続きます。
(文:佐藤智、写真:塩谷淳) →第1回から読む
デザインに頼ったブランドは弱い
佐渡島 たとえば、エルメスというのは、馬具の世界観から生まれている商品群です。だとしたら、『宇宙兄弟』というのは、宇宙ってものから生まれている商品群なわけです。また、『インベスターZ』の世界観は、投資というところから生まれているんです。エルメスは世界観をきちんと維持して、受容されている。本当にうまいブランドのコントロールだなと思います。
3Dプリンターとかがどんどん出てくると、物を手に入れることの難しさは、限りなく下がっていくと思うんです。「欲しいものを買う」ということはなくて、「物を買うときの感情をどういうふうにして起こすのか」がすごく重要になります。そのスイッチが、ブランドなんじゃないかなと思っているんです。
森岡 おっしゃる通りですね。
佐渡島 これまでは、ストーリーというものがブランド化できていなかった。だから、ブランドが、デザインを頼りにするしかなかったんです。しかし、デザインを頼りにしてるブランドは、これからの時代は世界観が弱すぎて、衰退するように思うんです。抱えている有名デザイナーが亡くなると、世界観を継承するのは難しくなる。しかし、ストーリーによってできた世界観は、デザインよりは継承しやすいと考えています。
森岡 そうですよね。世界観、物語は、継げるわけですね。
佐渡島 はい。『ハリー・ポッター』を読みまくって、映画も見まくって、テーマパークに行きまくって、大きくなった人間が、「私にとって、『ハリー・ポッター』はこんな世界だ」って言って、発展させるクリエイターがいる。それに対して、J・K・ローリングが「全部その通り!」って言うことって、結構起こりうるだろうなとは思うんです。
森岡 そうですね。
佐渡島 でも、エルメスを身にまといまくって、「私はエルメスをわかってる」って言って、デザインできる人間って、ほとんどいないだろうなと思う(笑)。
森岡 そうですよね。そこは、マーケティング分野でいう、マーケティングの戦略である「How」に縛られているか、どんなベネフィットをお客様に届けられるかという「What」に縛られているかの差なんでしょうね。
さらにいうと、「What」は新しい「How」を生み出す余地がまだあるんです。とはいえ、テーマパークは、ある程度採算ベースが大きい集客装置なので、ニッチなブランドをすごくプレミアムでやるっていうのはまだまだ少ないんですけどね。