ユニバーサル・スタジオ・ジャパンをV字回復させたマーケター・森岡毅氏とコルクの佐渡島庸平氏(twitter:@sadycork)の対談、第2回。
勘やセンスに頼りがちなエンターテイメントの世界で、マーケティングをいかに行えばいいのか。二人の対話は続きます。
(文:佐藤智、写真:塩谷淳) →第1回から読む
勝ちすぎることは成功ではない
森岡 エンターテインメント業をしていると、すぐに「確率の罠」にはまると私は思っています。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)では、年間に30個も40個も新しいプロジェクトが打ち出されます。そのすべてに対して、会社が危機的状況にならないように、ある程度手堅く成功確率を高めていかなければいけない。現在、その成功率は98パーセントまで高まってきました。しかし、本当は7割~8割くらい成功して、2割くらいは失敗したほうがいいんですよ。
佐渡島 どうしてですか?
森岡 基本的には、手堅く遂行するために、考えられる方法を全部駆使して成功させるじゃないですか。しかし「完璧に当たる」ということは「完璧な成功」ではないと思うんです。つまり、勝ちすぎることは成功ではない。
なぜ手堅くなるかというと、無意識のうちに、我々の中に「失敗をしたくない」というバイアスが働いているからなんです。だから、プロジェクトが必要以上にコンサバになっている。必然的に、当たるものばかりになっていく。逆に、2割の冒険を許したほうが、もしかしてとてつもないホームランが生まれるかもしれない。そちらの方が、会社をもっと大きくする確率が高いわけです。成功にばかり振り切れるというのは、確率論的にはいいことではないんです。
佐渡島 失敗も必要だ、と。
森岡 バイアスというのは、過去の成功パターンにどんどん縛られていくことです。自分の頭の中がどんどん囚われていってしまう。そこから抜け出すには、自分のしがらみをぶっ壊すような思考法を準備しなくてはいけないんです。あとは、意図的に冒険しなくちゃいけない。手堅く、手堅く、カチコチの小さい石橋を作っていては、だんだんと消費者に飽きられていってしまうと思います。
そのため、大成功じゃなくて、本当は成功確率80パーセントで、20パーセントは「意味のある失敗をしました」というのが本当の成功だと思うんです。そういう意味では、成功し続けながらも、なにか新しいものを出し続けていくということが、リーディングカンパニーであり続ける難しさなのではないかと思うんです。