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重ねる技術:
主役を狙わない

 メーカーのコンサルティングを行う際に必ずといっていいほど問題になるのが、「主役脇役問題」です。自社の商品が主役になってくれたほうが当然気持ちがいい。ただ生活のなかで主役になれる商品は限られています。主役を狙っていくということは、生活者の行動を激変させるくらいのインパクトが必要です。

 たとえばiPodのように1000曲を持ち運べるようにして、他のポータブルオーディオすべてを破壊するくらいのインパクトがないと主役の座は奪えません。それよりもすでにある主役を引き立たせる名脇役になるという方法が効果的なことが多いのです。

 脇役になることで登場機会は倍増します。結果的に売上も伸びることが多いので、自社の商品に脇役としての活躍機会がないかを考えることは新しい重なりをつくるうえで重要です。

 たとえば、ユニクロは、ZARAやH&Mというファストファッションブランドと戦うことをやめ、脇役の道を選びました。トレンドに左右されない機能性を高めたインナーウェアをはじめとした、ベース商材に資源を集中させています。ファッションには好き嫌いが現れますが、「AIRism(エアリズム)」や「HEATTECH(ヒートテック)」のような機能は老若男女、海を越えても普遍的な価値を生み出すことができます。世界中のファッションブランドが主役を争っているあいだに、ユニクロはいつしか名脇役の座を不動のものとしたのです。

企業の強み・思い:
シリアル単体で売るのではなく、朝食市場に根付かせたい

 カルビーは、「ポテトチップス」や「じゃがりこ」などを発売しているスナック菓子メーカーです。多くの読者にとって、その印象は強いのではないでしょうか。しかし、実は朝食マーケットで「1000億円の売上を目指す」目標を掲げているのです。

 当初は、「おいおい、それは難しいだろう」と、社内では誰もが思っていたようです。フルグラはいい商品ですが、売上が伸びず、「『いつやめるのか』という雰囲気が漂っていた」とフルグラ事業部の部長、藤原かおり氏は語っています。

 しかし、2009年に会長兼CEOに就任した松本晃氏は、売上30億程度だったフルグラの可能性に気づき、スナックのようにシリアル単体で売るのではなく、朝食市場にいかに溶け込ませるかという新しい挑戦を始めたのです。

生活者の本音:
朝のシリアルには抵抗があっても、
健康のためにヨーグルトに少し足すなら……

 シリアルに馴染みのない家庭にとって、朝ごはんをシリアルに変えるのは大きな決断です。さらに、朝ごはんにパンやご飯を食べている家庭では手抜き感も否めないので、急にシリアルに変えることはなかなか起こりづらいものです。

 典型的な朝ごはんであるパンに、サラダに、ヨーグルト。ここにメインとしてさらにシリアルが入り込むのは難しいですよね。だけど、ヨーグルトに少し足すだけで家族の体をいたわれるのであれば、「一度買ってみようかしら」と思う主婦は多いのではないでしょうか。

重なりの発見:
「ヨーグルトの友達としてのフルグラ」になった

 カルビーが発見したのは、フルグラを主役にするのではなく、ヨーグルトのお供にするというポジショニングでした。実はヨーグルト市場は、シリアル市場250億円に対し、10倍以上の3300億円(2011年)規模です。それだけ、ヨーグルトが日常の生活に入り込んでいることがわかります。このヨーグルトに混ぜるものとして、フルグラを訴求できれば可能性があるのではないかと考えました。

 ちょっと混ぜるだけで、フルーツの食物繊維をとれる便利な名脇役として、今まで混ぜていた蜂蜜やジャムと邪魔しあわないプラスアルファの存在を目指したのです。

 結果は驚くべき成長を遂げ、2011年に37億円だった売上が、わずか4年で約5倍の200億円に迫る勢い。主役になろうとして小さなシリアル市場で戦っていたら、小さな池のなかで主役になれていたかもしれませんが、大きな湖の名脇役になったことで、朝ごはんの食卓にフルグラがある生活を実現したのです。


参考文献

・「U.S. organic sales post new record of $43.3 billion in 2015」、Organic trade association、2016年5月19日配信

・「カルビー『フルグラ』、4年で年商5倍の裏側」、東洋経済オンライン、2015年8月19日

・「健康志向の高まりで、ヨーグルト市場は3年連続拡大」、ITmediaビジネスオンライン、2013年1月30日配信