過去30年間で感じてきた
アメリカ社会の変化

トランプ氏の「アメリカをもう一度偉大に」のスローガンが日系自動車メーカーに不安を感じさせる Photo by Keiko Hitomi

 大手メディアの予想を裏切った、第45代アメリカ大統領選挙の結果。

 だが、80年代半ばからこれまで、自動車産業界を通じて全米の主要各都市や地方都市を定常的に巡ってきた筆者としては、「十分に理解できる結果」だと感じている。

 いまのアメリカ国内の社会情勢は、富が偏在して中間所得層が急減し、新しい産業への移行を見誤った都市の経済は疲弊し、庶民は「いつまで経っても景気が悪い」と感じている。

 その証明とも言えるのが、地方都市のブルーカラーが主な顧客である、全米最大規模の自動車レース・NASCARスプリントカップシリーズの入場者数の減少だ。同シリーズは、野球のMLB、フットボールのNFL、バスケットのNBA、ゴルフのPGAと興行収入やテレビ放送の視聴率で同格の、アメリカを代表するエンターテイメントスポーツである。

 NASCARは60年代に創設されたが、90年代後半から急速に人気が上昇し、全米各地に10万人規模を収容する巨大レース場が数多く建設された。筆者は日本テレビ系列のCS放送で、同シリーズの実況解説を今年で13年間続けているが、2010年代前半から観客席に空席が目立つようになったと感じてきた。ブルーカラー層の所得が増えず、または減少し、将来への生活への不安を感じて、彼らの遊興費が減っているのだ。

 最近、NASCAR関係者がよく使う言葉に「オールドスクール」というものがある。これは、「古き良き時代」と同義だ。近代的なスポーツへと変革してしまったNASCARに対する、彼らの反省の弁だ。さらには、アメリカ国民として、アメリカ社会の過去数十年間の歩みに対する嘆きである。

 こうしたアメリカで感じる、筆者自身の肌感覚から、トランプ政権が日系自動車メーカーに及ぼす実質的な影響を分析してみたい。

キーファクターはNAFTA
TPP不成立の打撃は少ない

「Make America Great Again」

 この、トランプ次期大統領が選挙キャンペーンで掲げたスローガンによって、トランプ政権は日系自動車メーカーに対して排他的な政策を打つのではないか、という不安がいま、日系自動車産業の周辺で噴出している。