Photo:Keiko Hiromi、REUTERS/AFLO

 大統領選に勝利して以来、大洪水のごとく、トランプ関連記事がメディアには溢れているが、「ドナルド・トランプ勝利の要因」と「スティーブ・ジョブズが成し遂げたこと」の“共通点”に言及している記事はまずないと思うので、今回はそのことについて書きたいと思う。これはトランプ勝利の本質に関することでもあり、当連載の今年6月の第159回記事『英EU離脱、トランプ現象に見る「大きな物語」なき参院選のゆくえ』で「ヒラリーはトランプに負ける」と予測できたことにも関わることだからだ。その共通点のキーワードを先に述べておくと、それは「For the Rest of Us」である。このことを理解していただくために、まずはトランプとは何者か、そしてジョブズは何をやったのか、を理解していただきたい。

ポジショントークだった暴言の数々

 まず、トランプとは何者か。これに関しては、実はあまり多くが語られていない。共和党の予備選挙から大統領選にかけて、山のように解説記事は出ているが、そのほとんどはトランプ現象の原因や影響に関することで、トランプが何を言ったとか、それに対してアメリカ国民はどう反応しているかとか、そんなことばかりだ。

 もちろん、それらは大統領選の行方を予測するためには必要だったが、トランプが本当は何者であるかを知る手立てにはあまり役に立たなかった。なぜなら、政治家の発言というものはすべてがポジショントークであり、そこに本音が現れているとは限らないからだ。ましてやトランプは、自身がホストを務める人気番組「アプレンティス」まで持つ、人気テレビタレントでもある。

 世間の人はあまり理解していないようだが、テレビというメディアは、本音がダダ漏れするような人物が出演し続けられるようなものではない。世の中には、いわゆる「本音タレント」と言われる人たちがいて、「あの人は本音で語る。本音を言ってくれる」というイメージで人気になっていたりするが、それは視聴者の幻想だ。いかに毒舌の本音タレントでも、言っていいことと悪いことの区別はちゃんとつけるし、その区別をちゃんと理解できる人間でなければテレビの世界ではやっていけない。本当に「本音」を語るような人間は、テレビからは抹殺されるのだ。