人気の“自分居酒屋”。人それぞれの料理もいいが、それを囲むたくさんの笑顔がなによりのスパイスだろう。

 忘年会・新年会シーズンが過ぎ、歓送迎会が始まる春先まで外食業界はしばしの平穏を見せる。ただ、これは繁忙具合を見た場合の話だ。“アイドル・タイム”だからこそ、いかに他店舗と差をつけるか、いかに客足を向けさせるかといった点に各飲食店は思考を凝らしている。

 “全品270円!”といったように、低価格・均一価格を売りにした居酒屋の出店攻勢が止まらない。「値段が安いわりにメニューが豊富で味も悪くない」と、若者やビジネスマンを中心に人気となっている。「景気が悪い、景気が悪い」とつぶやきながらも、街の看板に吸い寄せられている諸氏も多いのでは?

 そんな低価格居酒屋に新たなジャンルが生まれそうだ。それが“自分で料理する居酒屋”である。東京メトロ東西線の茅場町駅から、徒歩1~2分。ビルの駐車場にクルマが並ぶその奥にあり、お店の存在を知らなければなかなか入りにくい「ニューカヤバ」は、セルフの立ち飲み屋だ。

 ビール、サワーなどはカウンターで注文するものの、焼酎、日本酒、ウイスキーは店内に設置してある自動販売機から購入する。100円玉を投入し、冷やと熱燗を選ぶのはかなり新鮮。

 さらには焼き鳥を焼くのも自分の仕事。注文をすると“火を通す前の状態”の鶏がお皿に乗って出てくる。酒が進んで生焼きやウェルダンにし過ぎないよう注意しよう。

 一方、新中野の「清貧」では、お店が用意した食材を購入し、厨房を借りて“自分で”料理を作ることができる。腕自慢も人まかせさんも、家飲み感覚でわいわいするのがよさそうだ。冷蔵庫から取り出した飲み物は自分で運び、食べ終わったら食器を下げる。全て自分の仕事だ。洗い物は店員がやってくれるので、それ用の準備は必要ない。

 肝心の料金だが、食材や飲み物などを含めても、街の居酒屋の半分ほどで済む。ただし、これは自分たちでテキパキ調理した場合のこと。30分200円のチャージがかかるため、「1人飲みや晩ご飯ついでに」といった使い方は、結果的に割高になることがある。あくまでエンターテインメント感覚で楽しむのが吉、と言えそうだ。

 そもそもセルフサービスとは、“陳列してある商品を自ら選び、レジに運んで会計を頼む”ことを指す。つまり飲食店以外のほとんどの小売店では、はるか昔からセルフサービスを導入していたわけだ。

 では“セルフサービス”という言葉の響きによって、業態や商品をブランド化する動きが存在するのはなぜか。それは、自分意志でなく、人に頼まれて初めて動き出すことが多いとされる若い世代にとって、自分主導でモノを選び、買い、所有するといった一連の流れが、魅力的に映るからかもしれない。

「当たり前のことを言うな!」――ごもっとも。ただしその“当たり前”を“当たり前”と考えられないからこそのセルフサービスであれば、それは憂うべきことだということを、認識しておく必要がありそうだ。

(筒井健二)