人類は漸進し続ける
第六に、自由。逆行している国はありますが、世界の民主主義指数は史上最高です。世界の人口の60%以上がオープンな社会に住んでいます。こちらも史上最高です。
第七に、知識。1820年、基礎教育を受けている人は17%にすぎませんでしたが、現在は82%に上昇し、急速に100%に近づいています。
第八に、人権。世界的なキャンペーンが展開されてきたこともあり、児童労働、死刑、人身売買、女性に対する暴力、女性の性器切除、そして同性愛を犯罪と見なす国は大幅に減ってきました。歴史が手掛かりになるならば、こうした野蛮な慣習は、人身供犠、人肉食、赤ん坊の間引き、奴隷、異端者の火あぶり、拷問処刑、公開絞首刑、借金の形としての強制労働、決闘、ハーレム、宦官、奇形を見世物にすること、てん足、精神障害者を笑い者にすること、……それにホッケーのエンフォーサー(乱闘専門の大型プレーヤー)と同じ運命をたどるでしょう。
第九に、男女平等。世界的なデータを見ると、女性の教育水準が高まり、婚期が遅くなり、所得が増え、権力や影響力のある地位に就くことが増えていることがわかります。
最後に、知性。すべての国で、知能指数は10年で3ポイントのペースで上昇しています。
人類の未来に悲観的な人たちは「ちょっと待った。破滅的な出来事はいつ起きてもおかしくない。そうなれば、こうした進歩もストップするか、後退するんだぞ」と言うでしょう。しかし、おそらく戦争を別にすれば、これらの指標のいずれも、株式市場のようなバブル崩壊や数値の急落には見舞われないでしょう。その進歩は少しずつ積み重なってきたもので、各分野の進歩が別の分野の進歩を刺激してきました。
豊かな国ほど、環境を改善し、犯罪組織を監視し、市民を教育し、医療を提供する資金的余裕がある。教育水準が高く、女性のエンパワーメントが進んだ世界は、独裁者に支配されたり、愚かな戦争に関わりにくい。これらの進歩を後押しする技術革新は加速する一方です。現在もムーアの法則は有効であり、ゲノミクス、神経科学、人工知能、材料科学、データに基づく政策立案が急速に増えています。
では、SF小説に出てくるディストピア(ユートピアとは反対の暗黒の世界)は到来しないのか。サイボーグの暴走やナノボットの氾濫は、おおむね空想にすぎません。おそらく2000年問題のように、大騒ぎしたわりには大した問題にはならなかった「テクノパニック」と同じ運命をたどるでしょう。
それでも懸念するべき深刻な問題は二つありますが、どちらも解決可能です。まず核の第三次世界大戦や、ハリウッド映画的な核テロリズムの問題。これらが起きる「予言」はされてきましたが、世界では長崎への原爆投下以来、核兵器が使用されたことはありません。冷戦は終結し、イランを含め16ヵ国が核開発を断念し、世界の核弾頭数は80%以上減りました。
2010年には流出核と核分裂性物質の供給を禁止する国際的な合意もありました。こうした過去70年間のトレンドを、さらに数十年持続すればいいのです。すでに核兵器の段階的削減に向けたロードマップは、ロシアとアメリカを含む主要国首脳が原則的に受け入れています。