仕事をしていれば、誰かに認められたい。結果を出したい。そう思うのは自然なことだ。でも、いつの間にかそれに囚われて苦しくなっていないだろうか。
サラリーマンでありながらサンダンス映画祭で日本人初のグランプリを受賞した長久允氏の思考法に迫ります。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
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評価されたくて空回り
「これは評価されるだろうか」
「上司はどう見るだろうか」
「こういうものが求められているのではないか」
そんなふうに考えながら作ったものは、たしかに大きく外さない。見た目も整う。説明もしやすい。
けれど、どこかで見たことのあるものになる。
映画監督・脚本家の長久允さんの著書『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』の中にも、かつての「評価されたかった自分」の描写が出てくる。
評価されたかった。売れたかった。自分が「最高だと思うか」なんかよりも、他者から評価されることを目指していた。「なんとなく映画っぽい」「それっぽい」ものを作っていた。作るべきだと思っていた。(中略)
セリフもアングルも「それっぽい」かどうかしか判断基準になかった。
当時、うっすらだがそのことを自覚もしていたと思う。本当にやりたいことではないけれど、評価されそうだなぁ、だから売れるために、私はこれをやらねばならぬ。そんなことを自分で自分に言い聞かせながら制作した。
当然、そんな映画はさっぱりなんの賞にも引っかからなかった。
――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう脚本の教室』p5-6より
他者評価ばかりを気にして、認められもしない。非常に耳の痛い描写だ。
評価を取りにいくことは、心に届けることとイコールではない
では、長久さんはそこからどうやって抜け出したのか。
あの頃と、今とで、何が違うのか?
それは「自由にのびのび書いた」だけでした。「それっぽさ」から遠く離れて書くということ。それだけでした。と、言ったらちょっと格好つけすぎかもしれないけれど、確かにそれだけなのです。
――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう脚本の教室』p7-8より
この一節を読んだとき、私は少し驚いた。
世の中に通用するものを作るには、まず外を見なければいけない。流行を分析し、ヒット作を研究し、評価される型を身につけなければいけない、そう思っていたからだ。
もちろん、学ぶことは大切だ。型を知ることも、観客や読者を意識することも、プロの仕事には欠かせない。
けれど、評価を取りにいくことと、人の心に届くものを作ることは、似ているようで違う。
評価されようとするほど、私たちは自分の中のいびつな部分を隠そうとする。説明しにくい感情を削る。個人的すぎる体験を避ける。もっとわかりやすく、もっと正しく、もっとそれらしく整えようとする。
でも、その結果できあがるものは、誰にでも作れるものになってしまう。
長久さんが教えてくれるのは、むしろ逆のことだ。
狙っていないからこそ届く
ビジネスになっているかどうかは問題ではありません。自分を信じて書いていたら勝手にそのうちビジネスになるから安心していい。むしろ、作家性が確立し、たまにある作り手サイドの労力と魂を軽視した「しょうもないタイプのコンテンツビジネス」の歯車にならずに済むでしょう。
――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう脚本の教室』p11より
数日後に、授賞式がありました。『そうして私たちはプールに金魚を、』は、短編映画部門で、グランプリを受賞しました。(中略)
まさか、他者の目を気にせずに、評価を求めずに作ったこの映画が。まさか、アメリカの一番大きな映画祭で、世界中の1万作品の中からグランプリに選ばれるなんて。本当に思ってもみませんでした。
審査委員長は舞台上で私に言いました。
「この映画は他の何にも似ていない」
――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう脚本の教室』p38より
「世界一の結果」と聞くと、特別な才能や戦略を想像してしまう。
けれど、本当に強い作品や仕事は、最初から世界を狙って作られたものではないのかもしれない。
評価を求めることは、外側に答えを探すことだ。
一方で、自分にしか作れないものを作ることは、内側に問いを立てること。
私は何を見たのか。
何に傷ついたのか。
何を美しいと思ったのか。
なぜ、あの場面を今も覚えているのか。
その問いに向き合うことは、効率が悪い。正解もない。すぐに評価される保証もない。
それでも、そこからしか生まれないものがある。
長久さんの言葉を借りれば、世界に通用するものは、「それっぽいもの」ではない。「その人にしか作れないもの」なのだ。
もし評価されたくて苦しいなら、一度だけ問いを変えてみてもいいのかもしれない。
「これは評価されるだろうか」ではなく、「これは、自分にしか作れないものだろうか」と。







