北朝鮮が核ミサイルを手に入れれば
韓国を力で脅迫するだろう

 最後に、北朝鮮との関係である。

 韓国の国民が、朴政権に対する怒りにまかせ大統領の退陣要求を繰り広げ、その結果を考慮することなく国内政治の混乱を招き、自身の安全保障を危うくしていることが気がかりである。韓国の主要メディアも混乱を収拾するのではなく、これを煽る現在の韓国政治に懸念を表明している(本連載の前回記事『もはや歴史的伝統。韓国政治はなぜリーダーシップ不在なのか』参照)。

 北朝鮮は、先の朝鮮労働党大会において、金正恩が核保有宣言を行い、頻繁なミサイル実験を繰り返している。グアムも射程に入れるといわれる中距離弾道弾のムスダンは6回の実験のうち5回失敗したが、関係者が処罰されたとは聞いていない。頻繁に政府高官を処刑し、職を解いている金正恩のこうした態度は、実験の失敗を恐れることなく開発を急ぐようにとの姿勢に思われる。それだけ、核・ミサイルの実戦配備に向けた意思が固いということであろう。

 確かに、崔順実被告の問題が発生し、朴大統領退の退陣を求める動きが出てから、北朝鮮の挑発の動きは完全に停止した。特に、11月30日に国連が北朝鮮に対する極めて強固な経済制裁を決定した後にも挑発行動を起こしていない。ただ、それは北朝鮮が挑発行動をとることによって、国民の意識が北朝鮮に向かい、その結果、朴大統領領の政治生命が息を吹き返すのを避けるためである。

 金大中、盧武鉉という北朝鮮にとって友好的な政権の時も韓国に対し、極端な挑発行動は避けてきたように思うが、それでも核・ミサイルの開発は続けてきた。今北朝鮮の挑発行動が収まったからといって核ミサイル開発を中断することはありえない。北朝鮮に対する宥和的な姿勢は北朝鮮に核ミサイル開発の時間を与えるだけである。

 次の大統領に野党系がなれば、北朝鮮に対し、対話重視の宥和的な政権になるであろう。特に「共に民主党」の文在寅氏は私が面会した時も、日本は北朝鮮に対してどう臨むのかと質問し、自身が北朝鮮との対話を重視する姿勢を鮮明にした。文氏以外が大統領になっても、朴大統領の北朝鮮敵視政策は失敗だったとする姿勢を取ろう。そして、次の大統領選挙は圧倒的に野党が有利というのが下馬評である。

 では、北朝鮮が核ミサイルを実践配備すればどうなるのか。おそらく韓国に対しては、核ミサイルの脅威を駆使して、過大な要求を突き付けてくるであろう。それは、北朝鮮の生存のための経済回復を韓国のカネで賄い、場合によっては韓国のカネで軍事力の増強を図ろうとするかもしれない。そして、究極の行動は、北朝鮮主導による南北統一を画策するかもしれない。そして、韓国の革新政権はこれに対して有効な対応ができず、無邪気に北朝鮮の策略に乗りかねない。

 また、米国に対しても対等な核保有国としての対話を求めてこよう。その時には、北朝鮮に対する制裁解除を求め脅迫してくることも考えられる。

 いずれにせよ、北東アジアの情勢は極めて流動的で危険なものになろう。

(元駐韓大使 武藤正敏)