通貨交渉でハリスの上を行った
水野忠徳の論理展開力
幕末の通貨交渉でみせた水野忠徳(ただのり)の論理展開力は、アメリカのハリス、イギリスのオールコックにコンプレックスさえ感じさせ、咸臨丸(かんりんまる)の操船を指揮したアメリカ海軍ブルック大尉は、航路計算をしていた小野友五郎(おの・ともごろう)の測量・天文知識のレベルの高さに驚愕した。
更に、ノブレス・オブリージュという社会的佇(たたず)まいが自分たち固有のものであると信じていたヨーロッパ騎士階級は、武士道という精神文化に同じように、或いはよりシビアに同じ態度が存在することを知り、やはり驚いたのである。
これらの、ほんの一部の事例が既に、江戸期とは決して全否定されるべき時代ではないことを示している。
これを成立させた政治システム、経済システム、そして、社会制度、学術レベルを詳しくみていくと、その社会全体に決定的な一つの思想が堅持されていたことが分かるのである。それは、江戸期の社会を根底で支配していた思想が、サスティナブル、即ち、持続可能な仕組みを尊重していたという事実である。
私は世界は「江戸」に向かっていると、象徴的な言い方をするが、産業革命以降の近代工業社会が、さまざまな矛盾、欠陥をあからさまにし、それによって世界の主役であった西欧文明が明らかに終焉を迎えようとしている今、世界はそれに代わる「よすが」を求めているのである。