店舗オープンを決断させたひと言

 5ヵ月間に4店舗のオープンを決断させたのは、実は、この『1坪の奇跡』の著者であり、吉祥寺「小ざさ」の代表である稲垣篤子氏だった。

「稲垣さん、今、様々なところからお話をいただき、天狼院は店舗を拡大しようとしていますが、稲垣さんはどう思いますか?」

 故人である伊神照男氏にはお会いすることはできなかったが、実子の稲垣篤子氏には、この1冊の本を通じて、事あるごとにアドバイスをいただけるようになった。

 稲垣氏は、もうご高齢だが、いつも僕の問いに対して、即座に明確な答えを出してくれる。このときもそうだった。身振り手振りを交えて、笑顔で僕にこう言ったのだった。

「いいんです、今いい気が来ているんだから、どんどん行けばいいのよ。もう、どんどん行けばいいの」

 僕は、稲垣さんの言葉に安心して、頷き、すべての出店を決断したのだ。

 たとえば、「奇跡」というものが本当に存在するとしても、それが実際に起きている時点では、何事もない日常のように思えるものだ。

 もしかして、「奇跡」とは、輝きに満ちた未来から逆算して必然という「定点」を打ったときに、その始まりとなった日常の「定点」のことを言うのかもしれない。
 僕と天狼院書店にとって、その「奇跡」に当たるのが、この本『1坪の奇跡』との出合いだった。

 もし、あのとき、『1坪の奇跡』に出合わなかったら、おそらく、きっと、いや、絶対にだ。絶対に、天狼院書店は、今のように生き残っていなかっただろう。
 多くの社員たちを背負うことができなかっただろう。
 僕はきっと、暗闇に取り残されていたに違いない。
(つづく)