要約者レビュー
スティーヴン・ウィット著/関 美和訳
365ページ
早川書房
2300円(税別)
いつから音楽は無料になったのか。日本の場合、WinMxやWinnyの登場あたりからという答えになるだろうし、アメリカにおいては、多くの人がナップスター以降と答えることだろう。だが、そもそもそういったファイル共有サイトが立ち上がる前から、音楽ファイルはインターネット上を漂っていた。
ファイル共有サイトのヘビーユーザーであった著者は、それらが一体どこから来たものなのか、突き止めたいという衝動に駆られた。その結果、生まれたのが本書『誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち』だ。著者は、音楽がタダになった理由として、(1)音楽の圧縮技術の向上、(2)音楽リークグループの出現、そして(3)広告収入という新しいモデルの登場を挙げている。この3つの物語が混じり合い、いくつもの謎解きと冒険が錯綜する本書は、まるでアドベンチャー小説のようですらある。すでに映画化も決まっているという話にも納得だ。
また本書には、90年代からゼロ年代のアメリカの主要アーティストたちの名前が次々と出てくる。音楽ファン以外が読んでも間違いなく面白い1冊だが、洋楽(特にラップ)ファンだと、ニヤリとさせられる場面も多いだろう。
CDが売れなくなった時代において、音楽産業ははたしてどこに向かおうとしているのか、そしてなぜそこに向かわなければならなくなったのか。本書を読んでいけば、その答えの一端が見えてくるはずだ。 (石渡 翔)
本書の要点
・mp3は技術的にすぐれていたものの、長い間mp2の後塵を拝していた。しかし、一般消費者がmp3ファイルを気軽に作れるようになったことで、mp3は音楽の新しい流通方式を生みだした。
・ほとんどすべての話題のアルバムをネット上に流出させたのは、たった1人の男だった。彼の最初の目的はカネだったが、最後はリーク活動そのものに取り憑かれていた。
・ファイル共有がメジャーになったことで、音楽業界は大きく低迷していた。その結果、広告収入によって利益を生み出すというビジネスモデルが生まれた。