グランドハイアット東京をはじめ世界各地の最先端ホテルの内装を手がける建築家、谷山直義氏は「東京には気づきがたくさんある」と語る。いま最も注目に値するスポットをあげてもらうと意外なところが出てきた。
語るひと=谷山直義 写真=山下亮一
超リッチな外国人も
感激してくれたのが三軒茶屋です
東京はおもしろいですよ。
海外でもかなりおもしろがられています。先日インドで5番目という超がつくリッチなひとが、私のゲストとしてプライベートジェットで東京までやってきました。そのひとの希望は「東京でおもしろい場所に連れていってください」というものでした。
私が選んだのは三軒茶屋。
国道246号線と世田谷通りと茶沢通りとの交差点にある昔からの商店街に連れていきました。
なんでも1948年に原型が出来た商店街とのことで、いまは屋上屋を重ねるというか、最初訪れたひとには迷路に思える複雑な構造になっています。そこに飲食店がぎっしり。とくに夜になると深夜をまわっても路上にひとが溢れて飲食を楽しんでいます。
ホテルを中心に空間の設計に従事していた私にとって、こんなふうに通りと店とが溶け合って、ひとのコミュニケーションが濃密なありかたこそ、なつかしくて実は新しいと思っています。
三軒茶屋の路上で立ち呑みにしていると、通りかかるひとが「ここはおいしいですか?」と訊ねてくることが多々あります。
うなぎ屋さんが客に頼まれて、「ほんとうはいけないのよ」と注意しながら、路上に七輪を出して酒のさかなを焼かせているのもなんともほほえましい光景です。
インド人のゲストはとても喜んでくれました。私の意図をすぐにわかってくれたようです。
世界のなかには、おなじような光景を見られる町があります。
たとえば香港。ビルとビルのあいだのすきまのような道を抜けるとそこに飲食店があって露天でみんなが飲食していたり。私がとくにいいなと思っているのは、九龍島のワールドセンターの裏手です。細部が全体を作りあげているというか、小さな飲食店とそこに群がる私のような客とが独特の雰囲気をかもしだしています。ベネツィアの路地にも似たような感覚をもてるところがあります。
東京では三軒茶屋のほかに、地下鉄銀座線の浅草駅の改札を出たところの浅草地下商店街は通路と店舗との区別がかぎりなく曖昧です。老朽化で移転の声もあるようですが、東京で一、二を争うおいしさのベトナム料理店があったり、個人的にも気に入っています。
最近の東京はおもしろいですか?と尋ねられて、私がすぐこういう商店街を思い浮かべたのは、これからの施設づくり、ひいては街づくりの参考になるからです。
私がみるところ、これからの人の嗜好は(おそらく世界的に)昔ながらのコミュニケーションへと戻っていこうとしているのではないでしょうか。三軒茶屋の飲食店街ではすれ違う他人どうしが時間や情報をシェアすることを楽しんでいる。自分の仕事の視点からいえば、箱的な建物を作って整然と区画を整理するのではだめだということかもしれません。まとめすぎてはいけないのです。
新しい施設はぜんぶだめかというと、私が感心させられるところがちゃんとあります。