サンプルとして持参した商品を
放り投げられたのに成約?
今から50年前、昭和30年代はじめ、まだインターネットも携帯電話も、いや新幹線さえなかった頃のことです。
今でこそ、日本の工業製品は高性能、高品質が世界中で評判ですが(あるいはムダに性能が良すぎるガラパゴス商品とまで揶揄されていますが)、戦後まもない当時は、メイドインジャパンといえば低品質、粗悪品の代名詞でした。
当時のアメリカ映画で、ガンマンが拳銃を撃とうとしたら、弾が銃口からポロリとこぼれてしまい、おかしいなと銃を調べた後で「あ、このピストルはメイドインジャパンだ」と言ってオチをつけるというシーンさえあったほどです。
そんな逆境の中で、熊本の中小企業、新日本窒素肥料のある営業マンが、1ドル360円だった時代にアメリカに渡航して、当時の世界ナンバーワンのコンピュータ会社IBMに自社商品である半導体ウエハーを営業し、みごと成約を勝ち取りました。そのときの様子は『電子立国日本の自叙伝』(NHK出版)という本の中で次のように語られています。
和田 IBMでは、技術屋さんに私たちのウエハー(シリコンを薄い円盤状に切ったもの)を空中に投げられましてね。なんと人をバカにしているんだろうと思ったんですが、それが評価の方法だったのです。空中に投げられたウエハーがヒラヒラヒラと舞うようにして、二メートルくらい先に落ちますね。それで割れなければ、「お前のところのウエハーはなかなかいいじゃないか」というわけですね。
― やはり、欠陥のない結晶は割れにくいのですか。
和田 そうですね。いい結晶は割れにくい。欠陥があると、すぐポロンと割れちゃう。それで、IBMのエンジニアはまず空中に投げたんですね(中略)。