もちろん、僕と同年配の方々も、「林住期」なんかに落ち着かず、動き回ってみたらいい。僕も最近、遊行を自覚するようになってから、若い人たちとの出会いや付き合いが増え、人生がまた面白くなってきました。

――「自由に生きる」という意味では、鎌田さんは既に昔から、「遊行」のテイストを持って生きて来たのではないですか?

 言われてみればそうかもしれませんね。東京医科歯科大学の医学部を卒業して、地方(30代で長野県・諏訪中央病院の院長となる)に赴任したのは、同級生では僕一人でした。あれは遊行の始まりだったかもしれません。

 チェルノブイリの放射能汚染地域に通い始めたのは、まだソ連の時代でした。これも遊行ですよね。来週からイラクの難民キャンプに行くのですが、それも遊行ですね。

 でも「本当に自由だったのかな」と、悩んでいました。周囲から「鎌田は自由でいいよな」と言われながらも、潰されずに生きてこられたのは、ただ失敗しないように器用に生きて来ただけなんじゃないかと。

 だからこれからは、もっと自由に、もっと失敗を恐れずにやりたいことをやれば、もっと面白いことができて、結果として社会のためにもなるんじゃないかなと気がついたのです。

言葉は、医者の薬よりも
強い力になる

――「言葉の力」の大きさについて繰り返し言及していますね。医療の現場で、言葉の治癒力のようなことを実感することは多いのでしょうか?

 非常に多いです。たとえば言葉の力で、すっかり元気をなくしていた末期がんの患者さんが急にニコニコしだしたり、最後まで自分らしく生きることができるようになったりしたのを、私は何度となく見てきました。医者が出すどんな薬よりも、言葉の力は大きいと思います。

 先日も、末期の膵臓がんを患っておられる90歳の男性患者さんの元へ往診した際、言葉の力を感じました。大学教授で、物理の専門家というだけあって飄々とされていましたが、元気がない。「実は悩んでいる」とのことでじっくりお話しているうちに、「死は怖くないが、認知症の妻を残して逝くのが気がかりでたまらない」と打ち明けてくれました。

 そこで「奥様の面倒は、ちゃんと僕たちがお子さんと相談しながら見るから大丈夫ですよ」と約束してあげたところ、表情が明るくなり、みるみる元気を取り戻しました。