サンフランシスコで誕生したNPO
インターネット・アーカイブ(IA)というNPOの名前に馴染みのある人は、アメリカでもそれほど多くはないだろう。
創設されたのは1996年、サンフランシスコ。創設者はブリュスター・ケール氏。テクノロジー関係者であっても、ある種の関心がなければ同氏の名前は知らないはずだ。
ところが、そのIAがここ数週間でがぜん注目を集めるようになっている。その理由は、トランプ新政権だ。
1月20日にインターネット上で起こった事件は、トランプの大統領就任と同時にホワイトハウスのウェブページから、重要な情報が消えてしまったことだった。
特にオバマ大統領が政策として前進させた地球温暖化対策、オバマケア、LGBT関連の情報やページがなくなった。その後、身体障害者のためのヘルプページ、市民権運動の歴史を記したページなども削除されたことがわかっている。
新しい政権誕生と共にホワイトハウスのウェブサイトが刷新されるのは常のことだ。だが、今回のように狙い撃ちしたように特定のページをすっかり消去するのは珍しい。一貫した政策はまだ見えないものの、トランプ新政権はオバマ時代の功績や政策の記録を壊しにかかることだけははっきりしており、ホワイトハウスから消えたウェブページは、まさにそのしるしと言えるだろう。
ところが、消えてしまったページを保存しているのが、上述したIAである。IAはもともとインターネット時代のデジタル図書館となるべく、ウェブページをアーカイブすることを目的として設立された。紙の記録ならばどこかに保存されるかもしれないが、ウェブページはその組織が消してしまえばそれまでだ。その組織が提示していた意見などを客観的な記録として残しておく方法がない。IAはその役割を担おうと20年も前に名乗りを上げていたのである。
当初は、なくなってしまったドットコム企業のウェブページなどを見たりする場所として知られた。今ほどIAの存在が重要になるとは誰も思わなかっただろう。重要な情報が歴史から次々と抹消されようとしている瀬戸際で、IAはそれを護衛する立場になったのだ。