「こいつは違う」と感じた
河村社長との出会い

 現在、吉野家ホールディングスの社長を務める河村泰貴と初めて仕事をしたのは、2001年のことです。当時社長だった私は、吉野家の「価値の再設計」と銘打ったプロジェクトを開始していました。デフレが進行する中、「うまい、やすい、はやい」のバランスをどう配分するかを設計し直そうというプロジェクトです。

 結果として、牛丼並盛400円を280円に値下げすることに成功し、その後の競争力を高めることができました。

 そのプロジェクトの企画部隊の最年少メンバーが、河村でした。

 河村は一番若手として、周囲からよく用事を言いつけられていました。私も直接話してオーダーすることがありましたが、レスポンスの速さと正確さ、相手が何を考えているかの理解の正しさが印象的で、「こいつはただの若造じゃないな」と思ったのを覚えています。

 元気いっぱいで、年上の先輩にも言いたいことをはっきり言い、それでいて嫌味がない。いま思うと、愛嬌あるキャラクター、明るさというのは、組織の長に欠かせない素質かもしれません。

 04年に当社がセルフうどんチェーンの「はなまる」の株式を取得し、経営陣を送ったときも、河村は最年少のメンバーでした。当時、はなまるうどんの加盟店オーナーさんたちは、この先どうなるのかと不安になっていた店も少なくありませんでした。1つ1つ交渉して、相手に強く言うこともあれば、相手の言い分を認めて本社に訴えることもある。

 そういう混沌とした状況で力を発揮したことが、内外の信頼を獲得した一端だと思います。後に、私が河村を後継者に選ぶことを、はなまる再建時のメンバーに話したとき、皆一様に賛成してくれたのはその表れだったと思います。

 管理能力が高いリーダーは、順境ではいい結果を出しますが、局面転換ができない。自分の理解を超えることが起きたり、現状の延長線上で出せない答えを求められたりするからです。

 そういうときにリスクの重さを知りながら、あえて挑戦できる人間は、青臭い言い方ですが「魂」がある。やってやろうという気持ち、大きなチャレンジに対して不安と同時にわくわくする気持ちを持てる人間。そういうリーダーでないと、現代のような不確実性の高い時代に、企業を成長させるビジョンを描くことはできないと思います。

 人間は変化を好まない生き物なので、リスクテイクできる人というのはそもそも少ない。さらにその中でも、単なる蛮勇で考えなしにリスクを取るイケイケドンドンなタイプではなく、リスクの何たるかを知ったうえであえてリスクを取ることができる人は、ほんの一握り。5%もいないのではないでしょうか。

 管理能力は後天的に学習し、身に付けることができますが、リスクテイクする能力と言うのは、かなり先天的要素が作用する気がします。河村だって、若いころは時々寝坊したりと、完璧な人間だったわけではありません。やんちゃな若者らしい失敗もありました。しかし、与えられた場において誰よりも挑戦し、努力し、今があります。

「こいつはリスクを取れる人間だ」。そう思ったら、ぜひその人物を貴重な人財とみなし、挑戦できる場を与えてあげてください。そして、傍から見て危なっかしくても、失敗するのが見えていても、事業の根幹を揺るがすほどのことでなければ、じっと我慢して口を出さないで見守ってやってください。

 彼・彼女はきっと自分の力で、痛みも失敗も血肉にして成長していくことでしょう。

 リーダーとなる人間に教えることがあるとしたら、ただ1つ。決断の軸に「志」を確立することです。浮利を追わず、メディアや同業他社の言動に振り回されず、「われわれが目指すべき道」を邁進すること。「誰のため、何のため」の使命感に順ずる心が、リーダーの器を大きくし、さらに次のリーダーの伝承へとつながっていくことでしょう。

(吉野家ホールディングス会長 安部修仁)