優れた創業者が一代で会社を築いた後、必ず問題となるのが後継者選び。「世襲」を単純に悪と捉える人は多いが、むしろ外部人材の登用で大失敗をするケースもある。後継者選びで押さえておくべき要点は、一体どこにあるのだろうか?(吉野家ホールディングス会長 安部修仁、構成/フリージャーナリスト 室谷明津子)
門前の小僧
習わぬ経を読む
世間一般で「世襲」という言葉が使われるとき、ネガティブな意味を含むことが多いですね。特に政治家に対しては、「世襲議員」と言うと大体が批判的な内容です。「親の七光りで地盤の支持者を受け継いで…」というのがよくあるバッシングですが、果たしてその人物が地元から支持される理由は、「親の七光り」だけなのでしょうか。
子どものころから政治家である親父を見て育ち、尊敬と共に反発や葛藤もありながら、同じ道を志していい政治家になった人はたくさんいます。
小さいころから政治に関心を持ち、他の人よりも考える機会が多いわけですから、政治家を仕事に選ぶ確率が高くなるのは必然でしょう。地盤がある分、一般の人より有利というのはその通りですが、それだけの理由で政治家になるような理念のない人物であれば、地元といえども有権者の心は離れていくでしょう。
事業承継においても、まったく同じことがいえます。「世襲=悪」というイメージを持つ人は多いですが、特に中小規模のオーナー企業においては、世襲で事業承継を行うのはいいことだと思います。私の認識では、創業家から後継者が出てうまくいくのがベスト。実力のある第三者が入ってうまくいくのは次に良い結果。世襲をしたがミスマッチだったというのは避けたい結果で、第三者が外から入って事業を食い物にするのが最悪です。
政治家の例と同じで、創業家の人間は幼いころから、親が事業に心血を注ぐ様子を見ているわけです。創業の歴史を聞き、お客さまへの感謝の心を教えられ、取引先にどういう人がいて、誰を大切にすべきかなども叩き込まれて育ちます。
「門前の小僧習わぬ経を読む」という言葉が示す通り、平生から見聞きしていたことの影響力というのはとても大きい。そういう意味では、やはり創業家が事業に抱く愛情、情熱というのは、第三者より強いはずです。そういう思いに加えて、経営を実行する能力が備われば、素晴らしいトップになるでしょう。
しかし、世の中そんなにうまくいくわけではありません。見聞きするのはむしろ、事業承継がスムーズにいかないという話ばかり。なぜ、そうなってしまうのでしょうか。