東京都の「要請」の是非

 首都圏では、今週に入って桜の開花が進み、花見の環境が整ってきた。

 しかし、特に東京都では、都が「花見の宴会の自粛」を要請する看板をあちこちの花見スポットに掲げ、石原都知事も「夜間、明かりをつけての花見は自粛すべき」(3月29日の記者会見)、「昼間だろうと花見で酒飲んでる時代じゃない。東京で花見なんかするわけには、絶対にいかない」(3月30日の集会での発言)と語り、お花見ムードにはブレーキが掛かった。

 東京都も石原知事も花見をするなと言っているのではなく、宴会をするなと言っているので、花を愛でることには何の遠慮も要らないのだが、酒食なし、宴会なしの花見は寂しい。

 東日本大震災の被害に配慮して、選挙運動が地味になっているが、東京は現在都知事選挙の最中であり、この花見自粛に関しては、都知事候補者達の間でも議論になっている。石原氏以外の複数の候補者は、この宴会自粛要請に批判的だ。

 批判する側の論点は大きく分けて二つある。

 一つは、そもそも「自粛」とは自ら判断して慎むことであり、要請とはいえ、方針を強制されるべきものではないことだ。蓮舫・節電啓発担当相が「権力による自由な行動や社会活動を制限するのは最低限にとどめるべき」と石原氏を批判したが、これは蓮舫大臣の側が正論だろう。被災者・被災地に対してどのような思いを持ち、それをどう表現するかは個人個人が考えることだ。石原氏が、この件に関して都民を指導しようと考えているなら、これは僭越というものだろう。

 もう一つの批判は、「自粛」が経済活動を停滞させることへの懸念だ。都知事選に立候補している東国原英夫氏は「何でも自粛すると経済が萎縮し“自粛不況”につながります」と警告している。被災地以外の経済が好況であるのと不況であるのとでは、前者の方が被災地の復興にとって好ましいことは自明だ。

 議論としては、何れも石原氏の旗色が悪い。都知事選の大事な時期にどうしてこんなところに力を入れてしまったのかと少々不思議だ。今回の震災の津波を「天罰」と表現して、この発言を後に謝罪・撤回した経緯が気になっていて、自分は被災者のことを重大に考えているのだということを強調したい気持ちになったのかも知れないが、それならば、むしろ、逆効果だったのではないか。