財政危機にあえぐポルトガルがEU(欧州連合)への金融支援要請に追い込まれた。4月6日、暫定政権を率いるソクラテス首相が決断した。支援を好感し、ポルトガル国債の利回りはやや低下、国債の保証料であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のスプレッドも縮小した。一見、落ち着いたようにみえるが、まだ債務不履行(デフォルト)の危機は去っていない。

 ソクラテス首相が議会に提案した緊縮財政策が否決され、首相が辞任表明をした3月23日以降、ポルトガル国債(10年物)の利回りは急上昇した。29日には8%を超え、5日には8.76%に達した。24日にはスタンダード・アンド・プアーズが、5日にはムーディーズが相次いでポルトガルを格下げした。

 CDSスプレッドも5日には583ベーシスポイントとすでに金融支援を受けているアイルランドとほぼ肩を並べる水準にまで上昇した。 ここに、ポルトガル国内の大手銀行がさらなる国債購入拒否を表明するに至り、ソクラテス首相は金融支援要請するほかの選択肢がなくなった。

 支援要請表明後、国債利回りは8.6%台に低下し、CDSスプレッドも550ベーシスポイントに縮小した。ポルトガルについで財政破綻懸念が取り沙汰されるスペインだが、ポルトガルの金融支援表明後、国債利回りは低下、CDSスプレッドも縮小している。

 ポルトガルの支援に必要な資金は「国債償還額や予想される財政赤字の額からみて今後3年間で700~800億ユーロ」(田中理・第一生命経済研究所主任エコノミスト)と予想される。EFSF(欧州金融安定ファシリティー)の総額は4400億ユーロ。ギリシャの支援総額は1100億ユーロ、アイルランドは850億ユーロで、これにポルトガルの支援額が加わっても対応は可能だ。これだけをみれば欧州の財政危機は峠を越えたかのようにみえる。

 しかし、火種は残っている。ソクラテス首相の辞任表明を受けて、6月5日に総選挙が実施される。一方、6月15日には50億ユーロの国債償還の期日を迎える。「4月15日償還分の資金の手当はすんでいるが、6月分はまだ」(中空麻奈・BNPパリバ証券クレジット調査部長)である。

 ソクラテス首相の辞任表明後、議会は解散されており、現在の政権はあくまでも暫定。ただ、選挙後の新政権発足を待っていては、新政権が立ち上がるまでは、6月15日の53億ユーロの国債償還の資金の手当が間に合わない。

 それゆえ、EUは総選挙を待たず現政権だけでなく野党も交えて協議をする考えのようだ。しかし、野党がソクラテス政権の緊縮財政案を否決したように、財政再建について増税重視の与党と歳出削減中心の野党の間の隔たりは大きい。財政再建策の協議が難航する公算は小さくない。こうした政治リスクが顕在化すれば、6月償還の国債のデフォルト懸念が高まり、再度国債の利回りの上昇、さらなる格下げといった事態は避けられない。

(「週刊ダイヤモンド」副編集長 竹田孝洋)

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