金正男暗殺にVXを使った北朝鮮
今後の動向には相応の覚悟が必要
金正日朝鮮労働党総書記の頃、北朝鮮の核開発は「瀬戸際外交」の手段だと言われた。核やミサイルの脅威をチラつかせ、韓国を脅迫して欲しいものを手に入れると、宥和姿勢に転じる、という外交である。その結果、金大中、盧武鉉大統領の90年代半ば以降、官民あわせて30億ドルが北朝鮮に流れたと言われている。
その頃、北朝鮮の挑発行動は少なかったが、核・ミサイル開発はその資金で加速された。この間は米国も、オバマ大統領の言うところの「戦略的忍耐」をもって、アメとムチで対話を通じた核の放棄を促そうとした。
それに対し北朝鮮は、時として核開発を抑制するかのような行動をとった時もあったが、それは偽装だった。昨年5月の朝鮮労働党大会において、金正恩朝鮮労働党委員長はとうとう核保有宣言を行い、核・ミサイルの最終的な開発と実戦配備を宣言した。昨年だけで、2回の核実験と20回以上のミサイル発射を行った。
それでも、西側諸国の常識的見方は、北朝鮮の核ミサイル開発は自己防衛のためであり、これを使用したり、中東のテロリストに売却するような自己破滅につながる行為はしないであろうと考えてきた。
しかしこの度、北朝鮮が金正男殺害にVXを使用したことで、その考えを改める必要性が高まっている。
猛毒のVXは化学兵器禁止条約で使用、生産、保有が禁止されているものであり、これを使用するなどあり得ず、それは自滅につながる行為であると考えられている。それでも使用した北朝鮮が、核やミサイルは絶対に使用しないと言えるであろうか。化学兵器ばかりでなく核・ミサイルまで使いかねないことを再考する必要がある。
トランプ政権の誕生後、2月初めにはマティス国防長官が最初の訪問地として日本と韓国を訪問した。3月16、17日にはティラーソン国務長官が訪日する。いずれも北朝鮮への対応が主たる議題である。