金正男暗殺事件について中国政府系メディアは、事件発生直後には金正恩氏を擁護したものの、3日後、『人民日報』傘下のチャットである「侠客島」に出現した論評は、読者の度肝を抜くほど、これまでの対北朝鮮への姿勢と異なるものだった。(在北京ジャーナリスト 陳言)

金正男氏が殺害されたことで中国のメンツは丸つぶれとなった Photo:AP/AFLO

 金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄・金正男(キムジョンナム)氏が、2月13日にマレーシアで殺害された事件が中国世論を沸騰させたが、これは中国政府にとってまさに「不都合な真実」を暴かれることを意味した。

 不都合な真実とは金正男氏が長期にわたって、北京やマカオに居住していたことである。北朝鮮事情を多少なりとも理解している普通の中国人ならば誰でも知っていることであったが、以前はこのことを知らなかった人の間にも、暗殺事件後、急速にこの事実が広まった。

 殺害された翌々日の2月15日に、「財新ネット」は、「管窺金正男 叫父兄太沈重!」(金正男の一側面を覗く 兄貴と呼ばれてあまりにも重い!)という記事(寄稿者:劉檸)を掲載した。記事は日本で2012年にベストセラーになった『父・金正日と私 金正男独占告白』(五味洋治著)からの引用が中心だが、この中で金正男氏が「大部分の時間は北京、マカオに居住している」と語っていることを明らかにしている。これは、暗殺された北朝鮮の「廃太子」(王位継承を廃された人)が、事実上ずっと中国の保護下にあったことを意味している。

事件直後には金正恩を擁護も
ネット民は反論と嘲笑で一蹴

 今回の金正男氏殺害については、全世界が北朝鮮、それも異母弟の金正恩の仕業だと指摘している。中国のメンツは丸つぶれで、ネット上では次のような表現が流れている。

「大衆の面前で顔を殴られた」に等しく、しかも「弟」が「長兄」の顔を殴ったということだ。さらに中国のネットユーザーは「さいわい暗殺は中国国内で発生しなかった。これは殴られはしたが、ともかくも顔につばを吐きかけられなかった、ということだ」と強烈に皮肉った。