今の金正男氏は決して
金正恩氏の脅威ではなかった

 韓国の人々には朝鮮半島情勢に関する危機感が足りないのではないか。

 昨年の読売新聞と韓国日報の共同の世論調査では、北朝鮮の核開発が脅威である、といった人は韓国で72%、日本の84%よりも少ない。核開発を放棄させられるといった人も、35%で日本の26%よりも多い。

 北朝鮮の核問題は日本の問題よりも、韓国の問題である。それでも韓国の方が、日本よりも北朝鮮の核問題に対する危機意識が少ないのである。

 2月12日の北朝鮮のミサイル発射と、翌13日の北朝鮮の工作員による金正男(キムジョンナム)氏の暗殺を聞いて、金正恩(キムジョンウン)氏は何をしでかすか知れない人物であり、北朝鮮は恐ろしい国であると、つくづく思った。

 金正男氏殺害による朝鮮半島情勢への影響は、今のところ小さい。中国が北朝鮮からの石炭の輸入を禁止したが、これは先般発射したミサイルの技術進歩に衝撃を受けたこと、米国トランプ政権が中国の北朝鮮対応を強く批判していることが主要因で、金正男殺害が直接の要因とは思わない。

 では、なぜ金正男氏は殺害されたのか。以前は中国が、金正恩氏を代える必要性が生じた際に擁立することを想定して金正男氏を庇護している、いう噂があった。また、金正男氏には生前北朝鮮のナンバー2と言われた張成澤(チャンソンテク)氏夫妻が面倒を見ていた。したがって、当時であれば金正恩氏は金正男氏を、自分の地位を脅かしかねない人物として、その芽を断ち切らなければならないと考えても不思議ではなかったかもしれない。

 しかし、今や金正男氏には過去の面影はない。ほとんど消息も知られず、海外で逃亡生活を送り、弟に狙われているとして命乞いをしていた。政治的野心も見せないように細心の注意を払ってきたようにも見えた。そのような影響力の失われた人物、しかも異母とは言え、自分の兄を殺害するのが金正恩氏なのである。

 金正恩氏は自身の権力の邪魔になるものは徹底的に排除する。そればかりか、気に食わないことがあれば、これも徹底的に叩く。

 そんな金正恩氏から見れば、韓国は日本や米国の協力を得て発展している国である。北朝鮮の生存を脅かしかねない。機会があれば、叩かなければならない。こう考えるのが自然の流れであろう。