インターネットといえば、世間の関心はもっぱらフェイスブックを中心とするソーシャルメディア系に集まりがちだが、この企業の存在も忘れてはならない。米西海岸のサンフランシスコに本社を構えるクラウドコンピューティングの有力企業、セールスフォース・ドットコムだ。この3年で売上高は2倍強の16億5700万ドル、利益は3倍強の6447万ドルに拡大(2011年1月期)。社員数も3年前と比べて倍増し、5300人を超えた。そんな伸び盛りの米国企業ゆえに、個人の競争心を煽るような組織運営がなされているのだろうと思ったら、大間違いだった。創業者のマーク・ベニオフ会長兼CEOが語る人材・組織マネジメント論は、信頼性や価値観、合意推進を重視する日本流にどこか相通じるユニークなものだった。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)
――セールスフォースはここ数年、急成長を続けているが、サービス、顧客、社員がどんどん増えていく中で、守り続けたいと考えているものは何か。
セールスフォース・ドットコムの創業者、会長、CEO。15歳でソフトウェア会社を立ち上げ、その後アップルやオラクルなどを経て、1999年にセールスフォース・ドットコムを創設。CRMソリューションを中心としたクラウドコンピューティングサービスの分野を切り開いた。ブッシュ政権下の2003年~2005年には、大統領情報技術諮問委員会の共同議長を務めた。著書に『世界を変えるビジネス』(ダイヤモンド社)、『Compassionate Capitalism(思いやりのある資本主義)』等がある
自分たちにとって重要な価値観を守りたい。それを、われわれは「T-A-C-T-I-C-S」という言葉でまとめている。
「T」は信頼(Trust)のことだ。これは、顧客に信頼されるという意味でもあるし、そして社内においても提携企業に対しても同じように最も大切な価値である。われわれは、この「T」を保つために懸命に努力している。これがないとビジネスは成り立たない。「A」は一直線に並んでいる(Alignment)こと。つまり、社員全員が同じ方向へ向かっていることだ。これを確実なものにするために、セールスフォースには「V2MOM」という仕組みがある。
――V2MOMとは、何の略か。
Vision(ビジョン)、Values(価値)、Methods(方法)、Obstacles(障害)、Measures(測定、結果の評価)のことだ。セールスフォースの社員は1年に一度、全社としてのV2MOMに従って自分自身のV2MOMを書き出し、これを1年間の行動指針にする。そしてこれを、みなが正しい方向へ進んでいるかを継続的に確認する土台としている。
――T-A-C-T-I-C-Sの残りは何か。
「C」は、コラボレーション(Collaboration)や合意推進(Consensus development)で、このためにも社内のコミュニケーション・ツールを多用している。セールスフォースは世界中にオフィスがあるので、コラボレーションがきちんと達成されるかどうかは非常に重要だ。