不況で消費が冷え込んでいる今年の冬、老若男女問わず誰もが買い求めているヒット商品がある。薄くて軽いのに暖かい「高機能肌着」だ。800~1500円と値段も手頃で、消費者の心をがっちりつかんでいる。ブームに乗り遅れまいと大手流通グループが続々と商品を投入し、売り場は大活況を呈している。
「ヒートテック(ユニクロ)」「ヒートファクト(イオン)」「エコヒート(西友)」「ファイバーヒート(しまむら)」「ヒートオン(ユニー)」
最近、大手流通チェーンの衣料売り場には「ヒート」の3文字が氾濫している。これらは、すべてヒート(発熱)性能を備えた高機能肌着の商品名だ。
ブームに火をつけたのはユニクロである。2008年に「ヒートテック」が2800万枚を売り上げる大ヒットを飛ばすと、09年にはアパレルや流通各社が続々と類似の高機能肌着を投入。800~1500円と安いこともあって、ヒート戦争は、文字どおり「熱」を帯びている。
「今冬は全世界で5000万枚のヒートテックを販売する」
11月初旬、ユニクロの親会社、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、自信たっぷりに言い切った。5000万枚分に必要な生地は、1.5メートル幅で4万キロメートル、なんと地球1周分に相当する。途方もない量だ。
「これでもまだ品切れすると思っている」という柳井会長兼社長の言葉どおり、すでに商品によっては品薄・品切れが発生しており、年明けを待たずして前年比8割増の5000万枚を売り切る勢いなのである。
強気なのはユニクロだけではない。「ヒートファクト」を展開するイオンは、昨年実績の4倍に当たる1000万枚の販売目標を掲げた(下表参照)。
11月末時点では前年同期比4倍のペースで売れており、目標達成ラインに乗っている。
西友の「エコヒート」も前年比2.5倍のペースで売れており、「ヒート」と名がつけば売れる状況である。
セブン&アイ・ホールディングスの「パワーウォーム」もヒート衣料。目標は昨年比2.5倍の250万枚だが、ほぼ確実に完売しそうな情勢だ。
高機能肌着がここまで大ブレークしているのにはいくつか理由がある。
従来、肌着(インナー)は、上衣(アウター)を着て「隠す」ものだった。昨年、ユニクロが「見せる」ことを前提としてアウターとしても着回しのきく商品を投入し、今年は各社がそのトレンドに同調して市場が一気に拡大した。インナーのアウター化という斬新な商品提案が見事に消費者のツボにはまったのだ。
加えて、各社による積極的な広告宣伝、販促プロモーション展開も大きい。ユニクロは世界的に著名なモデルやカメラマンを起用し、海外でもテレビCMを流すなど、過去最大規模のグローバルキャンペーンを展開している。イオンは若い女性のファッションリーダーであるタレントの木下優樹菜、セブン&アイは女優の黒木瞳を広告宣伝に起用するなど、各社ともそうとうに力を入れている。