リーマン・ブラザーズのアジア・太平洋部門の買収を決めた野村ホールディングスが、日本法人社員約1300人との正式な雇用契約交渉を開始した。
野村がリーマンを買収した狙いは、ずばり人材。野村に足りないとされる投資銀行部門やヘッジファンド向けセールス部門などを補強することが目的だった。
実際、投資銀行部門については総勢60~70人程度のうち、約50人をつなぎ止めたようだ。
株式部門でも、海外のヘッジファンド向けセールスで広く人脈を持つ外国人ヘッドに「かなりの報酬を提示した」(関係者)と見られ、部下を含め10人弱のチームがとどまる模様。
じつは、野村はこれらの部門を支援するバックオフィス人員も多数引き継ぐ。すでにインドにおいて、「野村よりはるかに高水準」(関係者)のIT技術者を擁するバックオフィス子会社の買収を決めており、連携を図るために日本の人材も必要と判断したのだろう。
このように現時点では、欲しい人材をうまく引きとめている。というのも、野村は買収を決めてすぐに日本法人の社員全員に対し、昨年と同水準の報酬を約束(平均年収は約4000万円)。
野村との簡易的な雇用契約の回答期限だった10月3日までに、多くの社員が応じたという。金融不況で「転職先が見つかりにくい」(関係者)環境であることも奏功した。
とはいえ、うまくいかなかったケースもある。株式のセールスや調査部門などの人員約60人が、同部門を持たない英証券バークレイズ・キャピタルへ転職。「ここは野村の得意とする部門で、自分たちは不要と察したのだろう」(リーマン関係者)という。
実質休業状態の社員の人件費はすでに発生している。「やることもなく暇」(元リーマン社員)な状況を早く解消しなければ、結局は高い買い物になりかねない。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 池田光史 )