ベネフィットをつくる“不”の発想
先ほど定義したようにベネフィットとは、「Aだった人を、(あなたが望んでいる)Bの状態にすること」です。この変化がポイントです。変化がなければベネフィットは生まれません。目に見えない気分的な変化であっても構いません。とにかく「変化」が大事です。
ただし、「こういう変化を提供しますよ」と伝えた時、お客さんから「自分ひとりでできるから、大丈夫です」と言われてしまうこともあります。先ほどの「空腹を満たす」というニーズはその一例ですね。相手が望んでいる変化だったとしても、相手があなたを必要としていなければ、そのコンテンツ(その商品・サービス)は買ってもらえません。
では、どういう時に「あなた」が必要になるのでしょうか? それは、相手が自分ひとりでは「B」の状態になれない時、つまり、何らかのハードルがあって、「やりたいけど、できない。でもやりたい」という時なのです。やりたいけどできないことがあり、「私だったら、それをできるようにしてあげますよ」と言ったとしたら、相手は確実に興味を持ちます。
これこそ、強く求められるコンテンツを作る考え方なのです。ぼくはこの視点をリクルート社で学びました。リクルート社では、ビジネスを作る時に、「自分たちに何ができるか」の前に、「世の中にどういう“不”があるか」を考えます。“不”とは、リクルート内で使われている言葉で、不満・不安・不足・不便・不快・不都合などの総称です。
消費者は、どんな不満を抱えているか?
消費者は、どんな不安を抱えて生活しているか?
消費者は、どんな不快な思いをしているか?
どんな不便を感じているか?
「世の中にどんな“不”があるか」を考えることが、リクルート社内で事業を考える時の基盤になっています。たとえば、就活生が会社に応募する時の不便、企業が思うように学生に自社をアピールできない不満を解消したのが「リクナビ」でした。
花嫁さんが「ベストな結婚式場を探せない」という不満、「自分が選んだ式場が一番良かったのかがわからない」という不安を解消しているのが「ゼクシィ」です。
提供者目線で、「もっとこうしたらいい」ではなく、あくまでも相手が「これができていない」「これができなくて不満がたまっている」というポイントをリクルート社が解決しています。だから、リクルート社のビジネスは「いつまでも強い」のです。
リクルート社は何をしている会社なのか?をひと言で表すのは難しいです。リクルート社は○○の会社という定義をすることが難しい会社なんです。「リクルート領域(人材ビジネス、結婚・不動産など)」という言葉はありますが、リクルート社はこういうビジネスをしている会社と表現しづらいです。
富士フイルム社は「写真の会社」、サイバーエージェント社は「インターネットの会社」です。でも、リクルート社はそういう定義には収まりません。リクルート社は「世の中の“不”を解消する会社」なのです。
誤解を恐れずに言うと、リクルート社では「自分たちがやりたいこと」、「自分たちができること」は二の次として考えています。だから、何か新しいビジネスを立ち上げる時にも「リクルート社が得意なことを活用して、何かやろう」という発想はあまり出てきません。
もちろん、リクルート社がまったくできなさそうなビジネスプランは検討さないでしょう。でも、リクルート社ができるかどうかよりも、世の中の“不”が先に考えられているのは事実です。それがなければビジネスにならないということがリクルート社の考え方なのです。
そして、その“不”を解決することで、ベネフィットが生まれます。世の中の不満や不安、不便を解消するということは、「不満だった人が、満足する」「不安を感じていた人が、感じなくなる」「不便だったものを、便利にする」という変化を生んでいるということです。これがベネフィットですね。
そして、不満・不安・不便は、誰もが解消してもらいたいと思っているものですから、“不”を解消することは、確実に相手から求められることです。“不”を解決することこそが、強いベネフィットを生み、強いコンテンツ、さらには強いビジネスをつくるのです。
「私はこんな技術を持っています」「この商品はこんな素材でできています」「このような商品は世界でこれしかありません」と言う代わりに、リクルート社では「あなたがやりたくてもできなかったことを、リクルート社ができるようにします」と伝えています。この発想こそがリクルート社の強いビジネスを生み出しているのです。
4つの要素の(2)資格、(3)目新しさ、(4)納得感についての解説と、(1)ベネフィットを含めた実際のコンテンツの作り方については、新刊『どうすれば、売れるのか?』で詳しく書いています。商品開発からコンテンツ制作、マーケティング、PR、集客まで、あらゆるビジネスで役に立つ、人の心を動かす究極のメソッドです。ご興味のある方はぜひお買い求めください。