『日本経済新聞』に株式投資について考えるきっかけになる記事が相次いで二つ載った。一つは「株、『長期投資の時代』は終わったか」(電子版、5月23日)で、もう一つは「会社予想頼らぬ銘柄選び」(5月23日、朝刊17面)だ。
どちらも、何はともあれ読みたくなるタイトルで、興味深く拝読したが、筆者の率直な感想を述べると、前者は知っておきたい事実と見識のある識者の意見をまとめた良記事であったが、後者は、経済専門紙のものとしては首を傾げざるを得ない記事だった。
「長期投資」は死んだか?
はじめに、長期投資について考えよう。「株、『長期投資の時代』は終わったか」は、TOPIX(東証一部指数)で代表させた長期間の日本株の投資収益率をデータとして掲げる。
年率複利の投資収益率で、2000年にスタートする10年間の投資だと1.3%、1990年スタートの20年間だと0.6%、1980年の30年間だと5.7%の投資収益率になっている。記事は、10年間、20年間のケースでは、100万円を投資したとして、88万円前後になってしまうので、バイ・アンド・ホールド(持ちきり)型の長期投資の有効性に対して疑問を投げかけているわけだが、30年間の収益率を見ると、このデータは寧ろ長期投資をサポートしていると見るべきだろう。
80年代から90年代前半にかけては金利水準が高いので、5.7%を現在の感覚で評価するわけには行かないが、この30年間には、日本のバブル(特に80年代後半)があったものの、日本独自のバブルの崩壊(90年代)、デフレ(2000年代)、それに世界的な金融危機といったネガティブな大イベントが三つもあったわけで、この中で5.7%の投資収益率は、意外に健闘している印象だ。
資産形成のための株式投資を考える場合、「30年」は決して長すぎる期間ではない。但し、「30年間の投資」というイベントを過去のデータで確かめようとする場合、期間に重なりのない独立した30年間のデータが複数個必要だ。データが、150年分あっても、その中に30年は5個しかない。そもそも、過去の実績を以て長期投資が有効であるかないかを検証すること自体に無理がある。