音読・手書き・簡単な計算」などの作業が脳を活性化する
川島教授が、脳がどのように働いているかを、画像によってとらえるfMRI(機能的核磁気共鳴画像法)という装置で調べた結果、一桁の足し算などの簡単な計算問題を解いているとき、本を音読しているとき、手で文字を書いているときに、左右の前頭前野を含めた脳全体が活性化していることがわかりました。
一方、一生懸命に何かを考えているときや、テレビゲームをしているときには、一般的に想像されるほど前頭前野は活性化していませんでした。さらに、その後の研究で、スラスラと速く計算したり、速く音読したりするほど、脳がより活性化することもわかりました。
川島教授は、これらの研究によって「簡単な計算や音読を毎日行なうことで、左右脳の前頭前野が活性化し、それが効果的な刺激となって低下しつつある脳機能を向上させることができる」という結論を得ました。学習療法では、この考え方を根幹に前頭前野機能の維持・改善を図るプログラムを行なっています。
学習療法で、重い認知症の人の脳機能がよみがえる
学習療法は、次の二つの基本的な考え方をもとに行なう学習プログラムです。
(1)「音読・手書き・簡単な計算」を中心とする、教材を用いた学習であること
(2)学習者(認知症高齢者)とスタッフ(学習療法スタッフ)がコミュニケーションを取りながら行なう学習であること
この学習プログラムの研究が、福岡県大川市にある社会福祉法人・道海永寿会(永寿の郷)と共同で、2001年9月から始まりました。参加した高齢者の方は、70歳から98歳までの47人で、研究開始時点での平均年齢は82歳でした。
研究の結果、学習療法をした人が、学習療法をしなかった人に比べ、明らかに「前頭葉検査」(脳機能を評価する検査)の数値が向上し、脳機能が改善されるという結果が得られました。
また、その結果は、高齢者の前頭葉検査の数値が向上したことにとどまりませんでした。まったく無表情だった人が、学習が進むにつれて笑顔が戻るようになったり、さらに、おむつに頼っていた人が、尿意や便意を伝えることができるようになったり、ついには自分でトイレに行けるようになったりと、日常生活に大きな変化が表れたのです。