一人ではなく、相手がいるので楽しく続けられる

 学習療法は、原則二人の「学習者」と、一人の「支援者」との組み合わせで実施します。その理由は、教材の学習だけでも脳機能改善効果があるのですが、支援者が学習者と上手にコミュニケーションを取ることで、さらに改善効果が得られるからです。

 現状、日本や海外で多くのいわゆる「脳トレ」プログラムが存在します。その多くは、プログラムを実施するために、パソコンの利用が必要な形態となっています。ところが、この形態だとパソコンを操作できない高齢者には敷居が高いだけでなく、画面を相手に一人で作業をしなければなりません。これでは、ソフトに余程興味をひかせる工夫がないと継続は難しいのです。

 これに対して学習療法では、学習者は支援者との顔を合わせたコミュニケーションを通じて楽しく実践することができるため、継続意欲が起きやすいのです。実際「あの人に会って、一緒に学習するのが楽しみで、学習を続けているのです」と言う人も、学習者のなかには結構います。この点が、一人で行なう他の「脳トレ」プログラムと比較した学習療法の大きな優位点です。

人は誉められれば、うれしくて続けたくなる

 また、学習療法におけるコミュニケーションには多くの工夫が施されています。認知症になると、叱られたり、落ち度をなじられたりする機会がどうしても増えがちなのですが、これが一番逆効果なのです。

 これに対して、学習療法では、たとえば、学習が終わった時点で、すぐその場で成果を認め、誉めるようにしています。このために、その学習者が必ず「満点」を取れるよう、その人のレベルに適した教材を選択し、学習における「達成感」を味わってもらうようにしているのです。

 「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、 誉めてやらねば人は動かじ」

 これは、かつて連合艦隊司令長官山本五十六が言った有名な言葉ですが、認知症の人に限らず、人は誰でも「誉められること」が、最もうれしく、やる気が出るものなのです。

 年を取っていくと他人に叱られたり、怒られたりする機会は増えても、誉められる機会は減っていくものです。まして認知症になると、これまで当たり前にできたことができなくなることで、周りの人から叱られたり、文句を言われたりすることが増えます。こうした背景もあって学習療法を行なうと、多くの方が心地よくなり、症状が改善していくのです。