科学的根拠が明らかな「非薬物療法」

 学習療法は、薬物を使わずに症状の改善が図れる「非薬物療法」の一つです。実はこれまで介護施設において多くの非薬物療法が取り組まれています。しかし、従来の非薬物療法の最大の問題点は、その療法が認知機能の改善に本当に有効であることの証拠となるデータがほとんど提出されていないことです。

 これに対し、学習療法は、音読・手書き・簡単な計算が脳の多くの部位を活性化するという科学的事実に基づいて開発され、症状改善に有効であることのデータが研究論文として提出されています。

 ちなみにこの論文は、2005年の米国老年学会誌(Journal of Gerontology)に掲載されています。通常、この雑誌に掲載されるまで投稿後2年はかかると言われていますが、この論文の場合、投稿後1か月で掲載通知が届いたとのことです。学習療法がいかに世界から注目されているかを示すものと言えましょう。

老人性認知症の問題は、コミュニケーションと身辺自立の障害

 加齢に伴い、脳の働きが衰え、それが重くなった状態が、一般的に「老人性認知症」です(一方、18歳から64歳で発症する認知症を『若年性認知症』と呼びます)。

 老人性認知症には、その発症原因によってさまざまなタイプがあります。介護施設で見られるのは、主に「アルツハイマー型認知症」、「脳血管型認知症」の二つのタイプです。脳血管型認知症の予防は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の予防が中心になっていますが、アルツハイマー型認知症の予防法は、いまだに明らかにはなっていません。

 老人性認知症の方と接するときの第一の問題は、コミュニケーションがうまくできないことです。言葉を介したコミュニケーション、そして表情などの言葉を介さないコミュニケーションの双方がうまくいかず、他者との意思の疎通が困難になります。感情のコントロールが利かず、突然怒り出して周囲の人を困らせることも問題です。そして、第二の問題は、身辺の自立ができないことです。食事や衣服の着替えなど他人の手助けが必要となります。

 これらのコミュニケーション、感情、身辺の自立などは、すべて大脳にある「前頭前野」と呼ばれる領域がコントロールしています。つまり、老人性認知症が発症する原因はさまざまですが、日々の生活で問題となる症状のほとんどは、前頭前野の機能に関係するものなのです。